2011年の「通信」分野には、大きな変化がいくつもあった。無線通信端末では、スマートフォン全盛の時代になった中、新しい無線通信端末を模索する動きが出てきた。下の表に示した記事ランキングで1位になったのもそうした端末といえる。この電話機は、スマートフォン、カーナビ、タブレット端末や電子書籍端末、そしてテレビなど多様化するそれぞれの「通信端末」から電話機能だけを切り離して、この端末「FLEX」に統合することを狙ったものである。ユーザー・インタフェース(UI)を捨て、SIMカードを用いた個人認証機能と電話機能だけを、一見、単なるブレスレットにしか見えない端末に埋め込んだ。
最近はスマートフォン並みのUIを実装した「スマートウォッチ」と呼ばれる腕時計なども登場している。これは、通信機能をスマートフォンに残して使うが、FLEXの考え方はこれとは逆。つまり、UIはスマートフォン風、あるいはその他の端末に残して、基地局との通信機能や認証機能だけを腕時計に埋め込む、という方向性になる。UI端末側は最小限の通信機能だけで済むようになり、電池の負担が減ったり、iPhone4などで課題になったアンテナの設計や配置の課題も軽減したりするかもしれない。実際にそうした製品が出てくれば、面白いだろう。
記事ランキングでは、そこまで斬新な話ではないものの、3位と10位にもスマートフォンの記事が入った。
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2011年「通信」記事ランキング
スマートフォン関連以外でランクインした記事のほとんどは、無線通信技術か光伝送に関する記事。言い換えると、電気伝送技術についての記事の勢いが消えつつある。
ランキングで2位に入ったのは、米Intel社が開発してきた光伝送技術「Light Peak」を、ソニーがパソコン製品に採用したという記事である。最近になって、家庭やオフィスのパソコンや家電製品間でも、1Gビット/秒を超えるデータ伝送速度や低遅延性が必要になりつつある。一方で、光伝送技術はまだコスト上の課題があるものの、最近は受発光素子や光変調器、そして導光路の小型化、低損失化、そしてCMOS技術との融合が驚くような勢いで進んでいる。このソニーの挑戦がきっかけになって、急速に普及し始める可能性がある。
無線通信技術は百花繚乱状態だが、中でも特に元気が良いのが無線LANである。ランキングの4位と7位の記事も無線LANについての記事だ。LTEなど新しい無線通信仕様が多数登場する中で、約14年前(1997年)に基本仕様が規格化された技術が今も脚光を浴び続けている。記者になりたての1998年に、無線LANの記事を編集会議で初めて提案して、「どうしてLANをわざわざ無線にしなくてはならないの?」といわれた筆者には特に興味深い。