組み込みソフトウエア分野において、日本でも要件管理の導入が進みつつある。

 要件の実現はシステムの開発において必ず求められることなので、これまでもExcelなどを駆使することで、要件の管理や実現は何らかの形で実施されてきた。

 だが、近年、ソフトウエアを含んだシステムの複雑性が増すにつれ、その安全性に関して説明責任を向上させようとの意識がさまざまな業界で高まってきた。ハザード解析およびリスク・アセスメントを行い、安全要件を立てた後、それらが後工程の成果物にキッチリと反映されているか。膨大な要件に対してそれを体系的に追跡することが求められつつある。いわゆる、要件のトレーサビリティの確保である。

 いくら要件管理を徹底し、トレーサビリティを確認しようとも、肝となる上流のリスク・アセスメントが不適切であれば安全性の向上にはつながらないが、打ち立てた安全要件が膨大なソフトウエアの中のどこに、どのように反映されているのかを管理することは、少なくとも安全性の説明の根拠として重要である。また、将来的に要件が変更された場合、それがどの範囲にまで影響するかというインパクト解析でも、要件のトレーサビリティは有効だ。

 変更管理や構成管理については、ここ10年ほどの開発プロセスの改善活動の積み上げにより、日本の組み込みソフトウエア開発の現場にも既に浸透しつつある(関連記事01)。また、オープン・ソースのツールも確立しているため、導入の障壁もそれほど高くない。

 一方、要件管理となると、体系的に実施している組織は、日本ではまだ少数派のようだ。要件管理ツールについても、オープン・ソースのものはほとんどなく、商用ツールから選ばざるを得ない。

ISO 26262適合がトリガーに

 そんな中、要件管理の導入を日本で加速させるドライバーとなっているのが、自動車分野の機能安全規格「ISO 26262」である。同規格は世界中の自動車メーカー約30社が、6年の歳月を掛けて策定したもので、ちょうど2011年秋に正式に発行した(日経エレクトロニクス 関連記事関連記事02)。