偉大なリーダーが亡くなった。米Apple社のSteve Jobs氏である。同世代で、同じ時代を歩み、何度も顔を合わせた人物がこの世からなくなるのは悲しい。「同じように、いつかは僕も死ぬ」と感じ、神妙な気持ちになった。

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 彼の功績は、さまざまな場で多くの人々が語っている通りである。Macintoshでパソコンの時代を切り開き、米NeXT社の新世代のOS「NeXTSTEP」をもってApple社に帰り、米Pixar Animation Studios社で3次元グラフィックスによる大ヒット映画を生み出し、携帯型音楽プレーヤー「iPod」、スマートフォン「iPhone」、タブレット端末「iPad」で人々の生活スタイルを大きく変えた。

 その偉大さは、メディアの歴史に重ね合わせると良く分かる。その視点でJobs氏の功績を振り返ってみると、彼が次に何を狙っていたかが浮かび上がってくる。

背骨にあった「メディア」の歴史

 正直なところ、Apple社が最初に製品化した「Apple I」や「Apple II」について、僕はあまり評価していない。Macintoshの開発で、これらの前機種とソフトウエアの互換性を切り捨てを彼は選んだからだ。ライバルの米Microsoft社は、WindowsにOSを切り替えるとき、前OSであるMS-DOSのソフトウエアとの互換性を確保した。その点は、Microsoft社の方が市場によく配慮してきたということができる。

 グラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)を取り入れたMacintoshは、確かに素晴らしい出来栄えだったと思う。Macintoshを目にして、Microsoft社の副社長だった僕は、MS-DOSの上で動作するGUIの開発を加速する必要があると感じた。

 ただ、多くの人々が評価するGUIは当時、必ずしもApple社による独創的なものではなかった。米国では、Personal Software社の「VisiOn」、Digital Research社の「Graphical Environment Manager(GEM)」など多くのコンピュータ関連企業がGUIの開発に邁進していた。そうしたGUI熱の中から生まれてきたのがMacintoshだったのだ。