今回で11回目になる韓国のディスプレイ関連の国際会議「IMID(International Meeting on Information Display)」が、昨年と同様に韓国ソウル近郊のKINTEXで「韓国電子展KES(Korean Electronics Show)」と同時に、10月11~14日の日程で開催されている。会場のKINTEXは1カ月ほど前に本館の隣に新館が完成し、IMIDのコンファレンスはこの新館で行われている。新館はモダンな雰囲気の建物で、個々の会場も十分な広さがあり、本館の展示会場の喧噪から離れて落ちついて発表を聞けるのが嬉しい。本館との間には動く歩道が設置されており、長い距離も散策気分で移動できるように配慮されている。IMIDはこれまで毎年400件以上の論文発表と2000人以上の参加者をコンスタントに集めているが、KINTEX新館の完成によりさらに充実した学会になると期待している。

KINTEX新館で初開催

 一方、細かいところでは不満もあった。ホテルからのバスは本館前に着くのだが、本館にはIMIDの展示会の案内はあってもコンファレンスの案内が無く、別の建物で開催されることを理解するのにかなり時間を要してしまった。インフォメーション・センターに行ったら、時間が早いためか誰もおらず、KESの受付のスタッフに聞いて調べてもらってようやく分かった次第である。様々な催し物が同時開催される場所なので、その日どこで何が開催されているかはすべての入り口に表示しておいてほしい。ちなみに、新館への動く歩道には「IMID Conference」の案内板が並んでいたので、そこから先は迷うことはなかった。

 新館の良いところは、各会場の席がゆったりと配置されていることである。特に中央付近の席は「大きな机に椅子が二人ずつ」という理想的な状態で、パソコンで予稿集を見ながら聴講していても隣の人が気にならないのが嬉しい。ただ、最初のセッションでは隣の部屋のマイクの音がそのまま流れて発表を中断しなければならないなど、新会場でパラレル・セッションを開催するための事前準備をもう少しきちんとしておいてほしかった。また、ついにオーサーズ・インタビューがプログラムから消えてしまった。これまでも参加者がほとんどおらず、有名無実化していたので仕方がないことかもしれないが、スケジュールの関係で聞けなかった発表について質問する場が無いというのは非常に残念である。

 ホテルに帰るシャトルバスの発車時刻が、最終発表が終わる時間より15分も早いため、最後から2番目の発表の途中で退席せざるを得なかった。最後まで聞いて地下鉄を乗り継いで帰ってもいいのだが、せっかくシャトルバスがあるのなら最終発表が終わった後にしてほしかった。この辺の時間感覚は、イベントの終わりは三々五々の自由解散が多い韓国ならではのことだと半分あきらめている。

 予稿集はCD-Rを受け取れるが、筆者のパソコンにはCDドライブが無い。そこで、受付のスタッフにUSBメモリ版が無いか聞いたところ、筆者の個人用USBメモリにわざわざコピーしてもらえた。このスタッフの暖かい思いやりで、それまでの会場探しの苦労も吹き飛び、気持ちよくコンファレンス初日の発表を聞くことができた。

LG、3Dの本格普及へ意気込む

基調講演の1人目のSeungkwon Ahn氏
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 基調講演の1人目は、韓国LG Electronics社 President&CTOのSeungkwon Ahn氏で、講演タイトルは「Value Innovation with 3D Technology」であった。

 LG Electronics社は3次元(3D)テレビの売り込みに熱を入れており、後述するが、韓国電子展の会場も3D一色だった。最近の市場では「3Dテレビは苦戦している」と言われているが、LG Electronics社は「2012年以降飛躍的に市場が拡大し、2018年にはテレビだけでなく携帯電話機やノート・パソコンなどを合わせて2億台の市場がある」と非常に強気である。コンテンツを増やすために必要な放送やメディアでの3Dフォーマットの標準化も進んでおり、環境は整いつつある。残る課題はディスプレイのフレーム・レートの問題だけだという。

 Ahn氏の発表では、フレーム・レートとは(視点数)×(コンテンツのフレーム・レート)と定義している。例えば42型の画面を3mの距離から左右30度の範囲で、どこから見ても自然な立体視を実現するためには、20視点が必要となる。つまり、通常の2D画像の20倍のデータを表示しなければならない。従って、裸眼で視聴する場合には、解像度を1/20にして使わざるを得なくなる。

 LG Electronics社はこれを解決する手段として、「アイ・トラッキング3DTV」を開発している。これは、視聴者の位置を特定して、その位置に最も適した左右の画像を視聴者の両目に与えるというもの。原理的には「視聴者数×2」の視点で済むことになる。しかし、「人の数が変わると解像度が変わる」というのは、商品としてなかなか受け入れられにくいだろう。

 それ以外の課題としては、「視点数が増えた時に、どのようにしてオリジナルの画像からその視点数分の立体視用画像を作り出すか」を挙げた。また、液晶ディスプレイの場合には応答速度の影響を避けることができないため、サブフレームの中で点灯時間と応答速度のバランスをどう取るのかが難しい。左右クロストークと輝度のバランスをどこで折り合いをつけるのか、という課題である。この点に関しては「パターン・リターダー方式が有利だ」というのがLG Electronics社の主張である。現在の技術の壁を正直に示しながら本格普及に向けた意気込みを示す、好感の持てる発表だった。