自動車のシガーソケットは、車両に搭載しているバッテリー(鉛蓄電池)から12V(トラックなどは24V)の直流(DC)を供給できる電源機能を備えている。最近では、簡易型カーナビ(PND)や携帯型音楽プレーヤーなど数多くの機器の電源として活躍している。

 このシガーソケットから携帯電話を充電できるアダプターを持っていた人は、携帯電話機を充電することができた。さらに、トヨタ自動車の「エスティマ ハイブリッド」などの一部のハイブリッド車など、家庭用電源(AC100V)のコンセントを備えているクルマの場合は、家電などをそのまま利用できたという。

 エンジン車では、エンジンの回転を利用して「オルタネータ」と呼ぶ小さな発電機を回して、鉛蓄電池を充電している。つまり、小さな発電機を搭載しているのである。非常時にはエンジンを始動し、鉛蓄電池を充電しつつ、消費電力が小さい機器であれば電力を供給できる。さらにハイブリッド車であれば、より大きな発電機(駆動用モーター)と駆動用バッテリー(ニッケル水素電池やリチウムイオン電池)を搭載しているため、より大きな電力供給が可能である。エスティマ ハイブリッドの場合は1500Wまで電力を供給できるという。

「エスティマ ハイブリッド」に装備可能なコンセント。1500Wと大電力を利用できる

 実際、トヨタ自動車 代表取締役社長の豊田章男氏は、被災地で非常用電源としてクルマの果たした役割が大きいことから、ハイブリッド車「プリウス」や2012年発売予定のプラグイン・ハイブリッド車に家庭用電源のコンセントを装備できるようにすることを2011年4月の会見で明らかにした。2012年の早期にプリウスなどに追加設定するとしている。

 このようにクルマに非常用電源としての十分な機能があることが分かると、新たな活用方法があるのではないかと考えてしまう。原子力発電所の操業停止などで、夏場の電力不足が懸念されているが、昼間の電力ピーク時にクルマを非常用電源として用いるという考えである。

 現状のクルマを用いるのは難しいだろうが、将来的に大きなバッテリーを持つハイブリッド車やプラグイン・ハイブリッド車、電気自動車などが普及することを考えると、クルマを蓄電装置として活用することを今から真剣に検討すべきである。実際、世界的には数年前からクルマと家、クルマと電力網を双方向でつなぎ、電力をやり取りする「V2H(Vehicle to Home)」「V2G(Vehicle to Grid)」と呼ぶ構想について活発な議論が始まっている。(次回に続く

2009年12月に限定的なリース販売を開始した「プリウス プラグインハイブリッド」。2012年から年間数万台規模で量産する計画
日経BP社の特設サイト『復興ニッポン』において2011年5月19日に掲載された記事を転載しました。