前編では、重大危機に直面した際の「適切なリーダーの条件」について解説しました。後編となる今回は、過去の事例を基にリーダーマネジメントの考え方をご紹介したいと思っています。

 2007年7月16日に発生した、震度6強の新潟県中越沖地震でリケンが被災しました。同社の生産ラインが壊れてピストンリングの供給が止まり、国内全12社の自動車メーカーの主要工場が生産の休止に追い込まれたことは、まだ記憶に新しいと思います。

 この時、リケンには自動車メーカーや部品メーカーから数百人の復旧支援要員が派遣され、わずか1週間たらずでリケンは操業を再開しました。同社は当初、復旧までに数カ月は要すると見込んでいました。リケンによれば、「トヨタや同社グループの復旧支援チームの復旧作業のスピードはとりわけ早かった」とのことです。

 トヨタがそう評価された大きな理由の1つは、派遣する支援要員の選定にあると思われます。一般に、外部への支援要員には、急ぎの仕事を抱えていない社員や手の空いている社員を選ぶことが多いものです。

 ところが、トヨタではエース級の社員を派遣します。具体的には、現場での実践経験が豊富な「CL」(係長クラス)と「CX」(主任クラス)、「GL」(グループリーダークラス)が選ばれます。現場に到着すると、CLが復旧支援チームのリーダーとなり、CXとGLからなる復旧支援チームを指揮・誘導します。CLがいなければ、CXがリーダーを務めます。

 エース級の社員を選ぶのは、豊富な経験から本当の原因、すなわち「真因」を短時間で見分けられる人材が被災現場では必要だからです。生産ラインが崩れ、倒れている膨大な機械や設備の中には、位置ズレや転倒しただけで機能的には無事なものもあれば、深刻な故障を起こしているものもあります。この中から、深刻な故障を起こしていて修理や部品交換などを要するものを高い確率でかぎ分けられる「嗅覚」を備えた人材をトヨタは復旧支援要員として選ぶというわけです。

 リケンに派遣されたトヨタの社員は、工場からクルマで1時間以上離れた場所に宿泊しました。近くの宿泊先をトヨタの社員で占拠してしまっては、いろいろな人に迷惑が掛かると考えたからです。外部の復旧支援に臨む際には、こうした周囲や地元への配慮も大切となります。

ジャスト・イン・タイムの本質


 東日本大震災後、一部の部品・材料の供給が止まり、日本のみならず世界の自動車メーカーの工場が一時稼働を休止しました。こうした中、にわかに「ジャスト・イン・ケース」という言葉が聞こえてくるようになりました。