前回前々回では,Light Peakについてざっとおさらいした。本稿ではソニーの発表を受けて,筆者が気になった点を順に列挙したい。

1.ソニーの搭載するLight Peakの正式名称はどうなるのか?


 正式名が明らかにされれば,少なくとも,ソニーとIntelが今後,Light Peakをベースにした光インタフェースをどうしていきたいのか,という方向性が分かるだろう。結論から言えば,筆者は今回の光インタフェースが,次世代のUSB,つまりUSB 4.0にしたいのではないか,と考えている。少なくともUSB 3.0のオプション仕様として,この光インタフェースを位置づけるのではないだろうか。

 Intel社やソニーなどからの正式な発表はないが,そう考える理由はいくつかある。まず,Intel社は光化への強い執念を持っている。かつてUSB 3.0の策定途中で,同社は光伝送の仕様を盛り込もうと考えていた。ところが他のUSB-IFメンバーからの反対などで,結局USB 3.0に盛り込まれないまま,2008年にUSB 3.0として正式に規格化された経緯がある。ところがIntel社は,USB 3.0の普及がいよいよこれからという時期である2009年9月にLight Peakの構想をぶち上げたのである。

 次にIntelがUSB 3.0の対応に慎重な姿勢を見せていることが理由として挙げられる。USB 3.0対応のチップセットを発売するのは2012年。USB 3.0が登場してから3年以上も後のことだ。こうしたことから,「Intel社はUSB 3.0よりも,むしろLight Peakの普及を目指しているのでは」という声もあがっていた。

 続いての理由が,Light Peakのコネクタを試作している鴻海精密工業(台湾Hon Hai Precision Industry Co., Ltd.,通称Foxconnあるいは富士康)が,当初からLight Peakのことを「USB 4.0」と言っていることだ。筆者自身,何度かHon Haiのコネクタ担当者と話をしたことがあるが,その中でしきりとUSB 4.0と発言していた。

 USBのような標準規格となれば,さまざまな機器に搭載されるので,市場拡大が見込める。しかも標準品とはいえ,Light Peak用コネクタを作るのは難しいため,先行者利益を確保できる。つまり,コネクタ・メーカーにとって「おいしい」商売になる可能性があるので,Hon Haiとしては,Light Peak用コネクタがUSB用コネクタになるように望むのではないだろうか。

 コネクタの作製が難しいのは,USB 3.0にも対応した上,光伝送にも対応しなくてはならず,その構造が複雑になるからだ。既にUSB 3.0のコネクタでは,これまでのUSB 2.0用の端子に加え,最大データ伝送速度5Gビット/秒で伝送する「Super Speed」モード用の専用端子を搭載している。ここに光伝送用の端子を加えると,構造はさらに複雑になる。特に光伝送路は光軸を合わせるなど,これまでの電気信号にはない設計ポイントがあるため,コネクタの実現が難しい。

 そしてその難しいとされるコネクタが,パソコン製品に搭載できる水準となった。ソニーの光インタフェース搭載パソコンには,光伝送が可能でUSB 3.0と互換性のあるコネクタが搭載されているもよう。この“実績”を引っさげて,Intelとソニー,そしてHon HaiがUSB-IFで議論に臨めば,USBの仕様として盛り込まれる可能性もある。
 
 実はインタフェースの仕様策定において,数社がまず試作品を作り,実際の製品に載せてから正式な仕様として認めさせる場合が出てきている。例えば,DisplayPort のミニ・コネクタである。Apple社はDisplayPortの仕様として策定される前に,DisplayPortのミニ・コネクタを同社のパソコンに搭載(Tech-On!関連記事1)。そのとき,Hon Haiがミニ・コネクタを作製した。その後この実績を武器に,DisplayPortのコネクタ仕様として採用させることに成功した。同じようなことを,Intelとソニー,そしてHon Haiは狙っているのではないだろうか。

 以上のことを踏まえると,Light Peakが今後USBとして振舞うようになる可能性は高い。

 もちろん,USBになる以外にもシナリオはある。例えば,Thunderboltの光版仕様となることだ。こうなると光版Light Peakは,電気版と同じく,「Thunderbolt」という名称を利用するだろう。

 このほか,ソニーが搭載するLight Peakベースの光インタフェースの名称はThunderboltにも,USBにもならない可能性もある。そうなると,同じIntel社が開発したLight Peakというインタフェース技術を利用しながら,異なる名称のインタフェース規格が市場に登場することになる。こうなると,かつてIEEE1394の名称をめぐり,Apple社が「FireWire」,ソニーが「i.LINK」で対立した時代と同じような構図が展開される。

 またもっと飛躍した見方をすると,DisplayPortの大幅な仕様更新は今後行われず,Thunderboltが次世代DisplayPortの枠に収まり,光版Light PeakがUSBの次世代仕様として採用されるかもしれない。そうなると将来,ひょっとしたらパソコンやデジタル家電などに載る機器間インタフェースは,Thunderboltと次世代光USBの二種類に集約されていくのかもしれない。つまり,Light Peakが席巻するようになるのだ。

2.ケーブルはどうなるのか


 Light Peakでは多モードのガラス製光ファイバを利用するようだ。そうなるとケーブルにもガラス製光ファイバが使われる。既にオーディオ機器では,音声伝送用にプラスチック光ファイバ(POF)が利用されてきた。だが,ガラス製光ファイバを,通信用途以外で民生機器向けに利用するのはほぼ初めてだ(FTTH向け宅内光配線用では利用しているかもしれないが)。それ故,ケーブルの耐久性や価格に強い関心を持っている。

3.機器内光配線への波及効果はどの程度あるのか


 かつてLight Peakが登場した当初,光伝送技術を採用するとあって,普及によって民生機器への光配線導入の追い風効果が期待された。Light Peakという先導役が登場することで,民生機器で「光伝送技術」を使いこなすノウハウが蓄積するほか,光配線で用いる部材コストの低減などが見込めるからである。例えば光軸合わせといった光伝送ならではの調整技術のノウハウや,VCSELや受光素子,光伝送路の低コスト化などである(日経エレクトロニクス関連記事)。何より,民生機器に「光伝送技術」が搭載された,という事実こそが,機器内光配線にとって大きな追い風になりそうだ。

 こうした期待は,電気信号を利用するThunderboltの登場でもろくも崩れ去ったが,ソニーのパソコンが登場することで,再び追い風効果を期待できる。さらにLight PeakがUSBとして導入されれば,その追い風はいっそう強まりそうだ。

 そして,ソニーがプレス・リリースで公開した,ノート・パソコンの内部構造を見ると,コネクタと光送受信モジュールまでの距離が長く,筐体内で光ファイバをはわせていることが分かる(図1)。つまり,「機器内光配線」をしているわけだ。ソニーは光配線の研究開発をしてきた(Tech-On!関連記事2)。光ディスク装置やレーザ素子,撮像素子,そしてレンズなども手掛けている。それだけに,同社は光学部品の扱いに慣れている。これが,Light Peak採用を早めた一因にもなっていると考えられる。

4.利用シーンはどうなるのか


図1 ノート・パソコンの内部構造を見ると,コネクタと光送受信モジュールまでの距離が長いので,筐体内で光ファイバをはわせている。
図1 ノート・パソコンの内部構造を見ると,コネクタと光送受信モジュールまでの距離が長いので,筐体内で光ファイバをはわせている。
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