図1  Light Peakをベースにした光インタフェースを搭載したソニーのノート・パソコンと、そのインタフェースで接続して利用する外付け装置「Power Media Dock」である。
図1  Light Peakをベースにした光インタフェースを搭載したソニーのノート・パソコンと、そのインタフェースで接続して利用する外付け装置「Power Media Dock」である。
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 「光を利用したLight Peakを採用するノート・パソコンが,2011年の7月に発売されるだろう」
2011年5月末,米国。目の前にいる取材相手の発言を聞き,私は一瞬自分の耳を疑った。しかし,何度訊ねても彼の答えは同じだった。米Intel社が開発した光伝送技術「Light Peak」(開発コード名)を搭載したノート・パソコンが今年の7月に登場すると。「具体的な企業は分からない」と前置きしつつも,その表情からは何か確信めいたものを感じた。果たして彼のその発言は正しかった。2011年6月28日,ソニーはLight Peakをベースにした機器間光インタフェースを搭載したノート・パソコンを7月末から発売すると発表したのである(図1)(Tech-On!関連記事1)。つまり,「光版」Light Peakが登場したわけだ。

 ソニーが光版Light Peakをノート・パソコンに搭載することを検討中であることを,以前から業界の「うわさ」として聞いていた。しかし,筆者は2011年中に登場することはないと考えていた。それは「電気版」のLight Peakである「Thunderbolt」が先行して実用化されたからだ。

 Light Peakは2009年9月,Intel社がIDFで発表した高速インタフェース技術である。登場した当初は,光伝送技術を利用するとしており,それが最大の特徴だった。ところがその後,当面光信号ではなく,電気信号を利用することが明らかになった(Tech-On!関連記事2)。そして,2011年2月,米Apple社がThunderboltを搭載したノート・パソコン「MacBook Pro」を発表した(同3)。それ故,2011年内は光伝送技術を利用したLight Peakが登場することはないだろう,と筆者は考えたのである。

 ところがその予想は見事覆された。ソニーは2011年7月末から発売予定のノート・パソコン「VAIO Z」シリーズの新製品「VPCZ21V9E」で,Light Peakをベースにした機器間光インタフェースを搭載する。本連載では,このLight Peakに関して数回に渡って記事をお届けしたい。

インタフェースの「集約化」を図る


 Light Peakは2009年9月,IDFで初めて公表された。最大の特徴は光伝送技術を採用したこと。これにより,データ伝送速度を10Gビット/秒以上,将来的には100Gビット/秒にすることを実現するというものだ。高速化によって,ケーブル一本でさまざまな規格のインタフェース信号を伝送する。つまり,物理層など下位層を各インタフェース規格で共用し,プロトコル層などの上位層はインタフェース規格ごとに異なるものを利用する,というものだ。もっと単純言えば,太い土管を用意して,その中にいろいろなものを流す,という発想である。

 高速な物理層を準備し,その上にさまざまなインタフェース信号を伝送して集約化を図る。こうした考えは,現在のインタフェース業界の一つの潮流となっている。例えば,DisplayPortの場合,変換アダプターを利用することで,DisplayPortとHDMIやDVIを接続できる。DisplayPortのデータ伝送速度は高速なので,HDMIの信号も伝送できる。具体的には,現行仕様であるv1.2では,1レーン当たりのデータ伝送速度は5.4Gビット/秒(Tech-On!関連記事4)。最大4レーン利用可能で,ケーブル1本当たり21.6Gビット/秒のデータ伝送速度が可能になる。補助チャネルである「AUX」チャネルを利用すれば,USB 2.0の信号を伝送できる。

 HDMIも,バージョン1.4から,Ethernet信号も送受信できるようになった(Tech-On!関連記事5)。中国版HDMIと呼ばれる「DiiVA」も,音声と非圧縮のHD映像を伝送できるだけでなく,EthernetやUSB 2.0の信号を伝送できる(同6)。電力まで供給可能だ。イスラエルValens Semiconductor社などが主導する「HDBaseT」も,音声と非圧縮のHD映像に加え,EthernetやUSB 2.0を伝送し,そして100W級の電力を供給できる(同7)。

 中でもDiiVAとHDBaseTはケーブルにEthernetケーブルを利用できる点で特徴的だ。つまり,DiiVAやHDBaseTはEthernetの物理層を利用し,オーディオ・ビジュアル系の信号を伝送しているのである。

 一方携帯機器向けインタフェースでは,米Silicon Image社などが推進する「MHL」や,伊仏合弁のSTMicroelectronics社とスイスST-Ericsson社が共同で開発した「Mobility DisplayPort(MYDP)」,米Analogix Semiconductor社が開発した「SlimPort」がある(Tech-On!関連記事8同9同10)。いずれも,5端子のmicroUSBを共用して,非圧縮のHD映像を伝送できる。つまり,USBのデータ信号と,HD映像の両方に対応するわけだ。microUSBを共用できるため,3種のインタフェース技術はいずれも専用のコネクタが不要だ。

 このうち,実用化で先行するのはMHLである。既に韓国Samsung Electronics社のスマートフォン「Galaxy S II」に採用済みだ。MHLはHDMIと同じTMDSによって映像データを伝送しているため,変換アダプターを利用すればHDMI端子を搭載したテレビと接続できる。筆者が知る限り,Galaxy S IIでは特に,「MHL搭載」をうたっておらず,むしろ変換アダプターを利用してHDMIと接続できる点を強調している。

 携帯機器の内部に目を向ければ,伝送技術「MIPI(Mobile Industry Processor Interface)」の次世代物理層「M-PHY」がさまざまな内部インタフェース規格の物理層として利用される予定だ。例えば,無線通信モジュールとアプリケーション・プロセサなどを接続する「DigRF v4」や,カメラ・モジュールとアプリケーション・プロセサを接続する「CSI-3」だ。また,メモリ・カード向け高速インタフェースUFSでもM-PHYが採用される見込みである(Tech-On!関連記事11)。

 こうした一本化を図るインタフェース群の中で,Light Peakが持つ大きな特徴は,映像伝送系とデータ伝送(ストレージ)系の両方のインタフェース規格に対応していることである。現在のところ,Thunderboltで対応が明らかになっているのが,DisplayPortとPCI Expressである。前者が映像伝送系,後者がデータ伝送系である。この二つに対応すれば,さまざまなインタフェース規格も扱えるようになる。例えば,DisplayPortであれば,HDMIやDVI、VGAに対応できる。一方,PCI Expressであれば,SATAなどに対応可能だ。

一本化を図る三つの理由


図2 赤丸部分が,USB 3.0に対応可能な光インタフェース用コネクタである。開口部の大きさは,USB 3.0と同じとみられる。
図2 赤丸部分が,USB 3.0に対応可能な光インタフェース用コネクタである。開口部の大きさは,USB 3.0と同じとみられる。
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