停電予報の表示例
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 東日本を襲った地震と津波によって、関東地方や東北地方は深刻な電力不足に陥った。福島第一原子力発電所をはじめとする被災した原子力発電所の再開のメドは立たないが、被災あるいは停止していた火力発電所の再稼働などによって、電力供給能力は高まってきている。東京電力や東北電力は東日本大震災発生直後のような計画停電を今後は原則実施しない方針を打ち出したが、電力需要がピークとなる今夏に向けて十分な電力供給を不安視する声は大きい。その対策として、政府は大口需要家と小口需要家、そして家庭部門にそれぞれ一律15%減という電力削減目標を設定してはいる。大口需要家に対しては需給調整契約などによる需要抑制策を打てるものの、即効性のある策を打てない家庭部門に対しては節電を呼びかけるだけで15%減を実現できるかどうか不透明だ(関連記事)。それどころか、猛暑によって夏のピーク電力が想定以上に高まれば、大停電が生じる危険性すらある。

 このような停電の危険性を知り、かつ一人ひとりの節電意識を高めて家庭での電力削減を進めようと、産業技術総合研究所(産総研)が開始したのが「停電予報」である(停電予報のWebサイト)。東京電力管内における1日の電力需要を1時間単位で予測すると共に、停電発生の可能性を2週間先まで予測する。さらに、パソコンやエアコン、携帯電話機など電気製品の利用形態を変えると電力需要予測にどのような影響があるのかを示す機能もある。節電に向けた一人ひとりの小さな活動が積み重なることで大きな電力削減効果につながることをグラフで可視化し、個人の節電意識の重要性をうったえるようにしている。停電予報を実際の電力需要と比較すると、かなり合致しているという。

人の流れの研究が電力需要の予測に生きる

人の流れの解析例
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産業技術総合研究所 サービス工学研究センター 行動観測・提示技術研究チーム 研究員 大西正輝氏
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 停電予報を開発したのが、産総研 サービス工学研究センター 行動観測・提示技術研究チーム 研究員の大西正輝氏注1)である。同氏はもともと人の流れをカメラ等で捉え、比較・可視化する方法の研究が専門であり、エネルギー関連とは無関係といえる立場であった。だが、東日本大震災に対して「国の研究機関に所属する研究者として、自分の研究を役立てることはないか」(同氏)と考えてたどり着いたのが停電予報である。東日本大震災直後、産総研に出社できない状況にあったので、その機会を利用して予測アルゴリズムを作成した。

注1)理化学研究所 客員研究員、北陸先端科学技術大学院大学 客員准教授を兼務

 果たして、人の流れの研究と停電予報はどのように結び付いたのか。その答えは、1日の時間帯による人の流れの変化を示すカーブが、電力需要の変化を示すカーブに似ていることにある。大西氏は秋葉原にある商業施設内にカメラを設置し、2階から3階、2階から4階へ移動する人数などを観測し、時間帯や天気、平日/休日などの状況で人の流れがどのように変化するのかを分析している。同氏によれば、人の流れは異なる要因のピークの重ね合わせになっているという。人の流れのカーブと電力需要のカーブは一致するものではない。だが、昼間はオフィスや工場での電力使用や家庭での電力使用など、電力需要のカーブも複数の要因の重ね合わせになっているのだ。