Q:電気自動車を手掛ける考えは?

 A:電子産業に属する私たちが自動車産業に参入するには、いくつかの問題を乗り越えなければならない。まず、生産台数が少ないこと。グループ企業の台湾Foxconn Technology Co. , Ltd.(鴻準)とドイツDaimler社は長年、部品売買を通して交流している。しかし、その需要量は年100万個ほど。我々は1日100万個の部品を生産あるいは消費している。

郭台銘氏

 次に安全性。トヨタ自動車が2010年に叩かれた様子を見て、私たちは考えさせられた。自社ブランド事業だろうとなかろうと責任を負わなければならない。私たちはそうした経験も、自動車そのものを手掛けた経験もない。Daimler社やBMW社、トヨタ、ホンダなどは単に自動車を組み立てている企業ではない。まだタブレット端末でさえ完璧に造れない我々が、そんな責任を負えるだろうか。

 だから私たちは、完成車の自社ブランド事業や受託生産を手掛けるつもりがない。ただ、液晶パネルとタッチ・パネルを接合するといったカーエレクトロニクス分野にはチャンスがある。私たちは精密モールディング部品も造れる。鴻海が手がけるのはこうした分野にとどまる。

 台湾Acer社(宏碁)の創業者であるStan Shih(施振榮)は、自社ブランド品による台湾の振興を提唱している。しかし、この点において彼と私の考えは異なっている。

 Q:自社ブランド事業を始めることはないのか?

 A:そうだ。以前、私たちが造った携帯電話機の背面に「made by Foxconn」と印字してはどうか、とインド企業が提案してきた。品質の高さを訴求しやすくなり、私たちがより多くの収益を得やすくなるという理由からだ。しかし、断った。

 自社ブランド事業ならば儲かるわけではない。シャープ、ソニー、フィンランドNokia社、どれも良いブランドを持っているが、どうだろうか。シャープの利益率は私たちより低い0.7%と聞いている。しかも台湾は自社ブランドが機能しやすい内需が乏しい。私たちは中国で家電流通業に参入したが、ここまでだ。私は台湾ブランドが長期的に成功を収めると思っていない。鴻海は部品事業や技術開発、優れたブランド品の製造に集中する。ブランド事業も自動車事業もしない。

 台湾企業は、震災後に市場が萎縮して困っている日本企業を手助けできる。例えば、私たちは村田製作所に対して部品購入代金の支払いを早めた。私の同僚が「お金が不足しているはずだから代金の支払いを早めましょう」と提案し、私はそれに同意しすぐに財務部に支払いを命じた。村田製作所にとって鴻海は、最大の顧客である。

 震災に対して台湾人は世界で最も多く義援金を送った。私たちもまた日本企業と長期的で、唇と歯のように互いに密接な関係にある。世界各地で協力できる。困ったことがあったら台湾の駐日代表である馮寄臺に伝えてください。日本は、お互い発展に資する最も緊密で信頼できるパートナーだ。日経はこのことを報じてください。