郭台銘氏

 台湾Hon Hai Precision Industry Co., Ltd。(鴻海)は、2011年6月8日に株主総会と記者懇談会を開催した。その場における同社董事長である郭台銘氏の発言を、弱干の編集を加えた上で数回に分けて紹介する。

 今回掲載する内容は、シャープやキヤノン、日立製作所といった企業との協力や電気自動車事業などに関して日本経済新聞社が問うた質問への回答である。世界市場を席巻する鴻海の事業方針が明確に示されている。(大槻 智洋=威志市場研究,NE特約記者)

 Q:鴻海グループがシャープや日立製作所と液晶パネルに関して協力すると報じられている。どのように考えているのか?

 A:台湾Chimei Innolux社(奇美電子)が回答すべき内容だが、鴻海グループの方針からお話しよう。私たちは大型、中小型に関わらず、液晶パネルの大口ユーザーである。液晶モニターやテレビ、携帯電話機などを生産しているためだ。

 日本と台湾の液晶パネル産業はともに、韓国のSamsung社やLG社が過去受けたような、政府の支援をあまり受けていない。彼らは強力だが、この2社だけに絞られるわけではない。それでは液晶パネル産業が特定地区に集中しすぎることになる。日本と台湾の企業は、第3と第4の企業をつくれる。日本では2~3の企業グループに集約されてきた。

 私たちとシャープの協議は、2011年6月3日に日本経済新聞によって報道された。この提携協議は、既に1年以上経過している。協議内容は多面的だ。液晶パネルだけにとどまらない。シャープは大型、中小型液晶パネルに関する技術だけでなく、優れた商品を多く持っている。空気清浄機や冷蔵庫、携帯電話機などだ。シャープは1500万台の携帯電話機を出荷する日本最大手である。さらに、両者共同での技術開発や部品購買も検討している。

 日本は、慎重さを重視する文化を持っている。注意深く一歩一歩、恋愛結婚をする男女のように、時間をかけるつもりだ。私たちはシャープの一部商品を出荷し始めている。白物家電や将来のIntelligent白物家電に関しても話をした。協議中なので詳しくは話せないが、液晶パネルや技術、購買、将来の萬馬奔騰(主に華南地方の社員が帰郷し、修理サービスを特徴とする販売店を設ける計画)、技術の共同開発といった多方面での協力を検討している。政府の手厚い補助を受けていない私たちが開発リスクを分散できれば、さらなる協力につながるだろう。

 日立製作所とは、IPS方式の液晶パネルに関して話をしている。同グループの幹部は福島県における原発事故の後多忙なので、私たちはそれが落ち着くのを待って話を進めようと考えている。ただし、技術面での交流は続いているので、適宜みなさんに報告する。

 最近はキヤノンとも交流を深めている。キヤノンが2011年5月12日に上海で開催した新製品発表会に参加し、社長と話をした。だいぶ前、確か第7世代の液晶パネルの生産が始まるころにも発表会に参加している。キヤノンは大変素晴らしい光学技術を持っており、私たちは彼らから長年、多くの機器を買っている。

 日本には提携に適した良い企業がたくさんある。ここでは3社を挙げたが、10社以上と話し合いをしているところだ。協力し始めたばかりのことも、既に1~2年経ったこともある。日本企業との提携は、特定企業とのWin-Winの関係にとどまらない。多方面で好影響を与えられる。もっと拡大、加速させるつもりだ。日本で電力不足が見込まれているが、ここでもお互いに手助けできる。

 日本企業と台湾企業の提携は、日本企業と韓国企業のそれよりも上手くいく確率が高い。私はこれを100%保証する。あなたたち(日経)も調査してみてください。私は成功確率が高い理由が4つあると考えている。

 (1)それぞれの長所を活かせること。日本企業の長所は培った技術と真面目さ、台湾企業のそれは高いフレキシビリティである。(2)知的財産権を尊重すること。我々は決してコピーしないし、ロイヤリティも必ず払う。鴻海もたくさんの知財を保有している。(3)正直で信用を重んじるなど、双方の文化が近いこと。(4)日本企業はブランドを持ち、我々は持たないこと。多くの日本企業が自社ブランド事業を持つSamsung社と提携した結果はどうだったのか、あなたもご存知でしょう。