酸化物TFTの発表は今回の「SID」(ディスプレイ関連で世界最大の学会、2011年5月15~20日に米国ロサンゼルスで開催)でも非常に多かった。しかも、高信頼性を掲げる発表が増えてきており、いよいよ実用化が近づいてきていることを実感させる。

 セッション名としては「Active Matrix DevicesのOxide TFT I, II」の二つのみだが、「OLED Displays II」セッションは酸化物TFTをバックプレーンに用いた発表だけを集めていた。また、フレキシブル・ディスプレイに応用した発表もあった。ポスター・セッションでは、「Active-Matrix Devices」の発表26件中の実に18件が酸化物TFT関連であった。次世代FPD用デバイスの本命技術として、今まで以上に多くの研究者が酸化物TFTの開発に携わっていることが分かる。

Oxide TFT I●200℃プロセスやオフ電流低減の新技術を発表

 「Oxide TFT I」セッションでは、まず東芝が200℃以下の低温プロセスでプラスチック基板上に形成したIGZO(In-Ga-Zn-O)TFTを用いて試作したフレキシブル有機ELパネルについて発表した(論文番号4.1、Tech-On!関連記事)。BT試験の結果については、Vgs=20V、70℃、2000秒の条件で、ΔVth =0.22Vであると報告した。試作したパネルの仕様は、3型、160×120画素、2Tr+1Cap(2トランジスタ-1キャパシタ回路)の画素回路、ボトム・エミッションの白色有機EL+カラー・フィルタ構造で開口率は40%である。走査ドライバ回路はTFTで内蔵している。

写真1 東芝の200℃プロセスのIGZO TFT基板
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 続いて、韓国Samsung Mobile Display(SMD)社が、内蔵走査回路の動作の安定化と低消費電力化を図った14型有機ELパネルを発表した(論文番号4.2)。フローティング・ゲートを用いて酸化物TFTのオフ電流を低減させている。

 一般に酸化物TFTはVthが0V以下になることが多く、Vgs=0Vでのオフ電流が大きい。このため通常の回路が動作しにくかったり、消費電力が大きくなったりするという問題がある。そこで、SMD社は回路の一部をフローティング・ゲート構造にして、走査期間の前に適切な電位にセットさせた。その上で、容量結合で入力信号を制御して安定動作を確保している。

 SMD社はもう一つの方法として、積極的にゲート・バイアスを最適化するダイナミックVth制御方式の回路も発表している(論文番号49.3)。試作した有機ELパネルの仕様は、14型、960×540画素で、画素回路は3Tr+1Capである。

 台湾National Chiao Tung大学は、ナノドット・ドーピングにより79cm2/Vsという高移動度を実現した酸化物TFTの発表があった(論文番号4.3)。残念ながら信頼性に関するデータは提示されなかった。

 半導体エネルギー研究所はアドバンスト フィルム ディバイス インク(AFD Inc)と共同で、酸化物TFTを用いて走査回路まで内蔵した6型のフィールド・シーケンシャル駆動のブルー・フェイズ液晶パネルを発表した(論文番号4.4)。酸化物TFTの80℃、1時間のBT試験結果は、+20Vの印加でΔVth=0.56V、-20Vの印加でΔVth=-0.24V、+30Vの印加でΔVth=0.88V、-30Vの印加でΔVth=-0.27V、+40Vの印加でΔVth=0.83V、-40Vの印加でΔVth=-0.38Vであった。ブルー・フェイズ液晶の駆動電圧は30Vと高いため、その低電圧化が課題だという。

写真2 半導体エネルギー研究所が試作した酸化物TFT駆動のカラー・シーケンシャルのブルー・フェイズ液晶パネル
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写真3 半導体エネルギー研究所の試作パネルの仕様
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