ディスプレイ関連で世界最大の学会「SID 2011」(米国ロサンゼルス、2011年5月15~20日)の最終日に開かれた「OLED Devices II」セッションは、実用水準に近い塗布型有機ELの発表が相次ぎ、会場は大いに盛り上がった。

ソニーのハイブリッド有機EL、270ppiで塗り分け

 まずソニーが、2010年12月の国際会議「IDW」で発表した「ハイブリッド有機ELデバイス」について、さらに詳細な技術情報を報告した(論文番号62.1)。このハイブリッド有機ELデバイスは、塗布型で形成したR層(赤色層)とG層(緑色層)に共通蒸着層を組み合わせてフルカラー表示を行う。共通層として用いられている「HCL-1」には、ホール阻止層のような有機EL性能向上の効果がある。T1エネルギー(励起三重項状態のエネルギー)が高いHCL(hybrid connecting layer)、およびR層とG層の塗布材料の選択しだいで、さらなる特性改善が期待できるという。

 驚くべきは、従来のインクジェット技術では実現が不可能と思われていた270ppiの高精細度で、RとGの材料を正しく塗り分けている点である。この塗り分けの技術については「詳細は公開できない」とのことだが、このデバイスのために独自の技術開発をしたそうである。

 ハイブリッド有機ELの魅力は二つある。

 (1)FMM(メタル・マスクによる蒸着法)では実現不可能な300ppi以上の、レンダリング技術を用いない“リアル解像度パネル”を実現できる可能性がある。これを実現できれば、有機ELパネルの「最大の欠点」と言われている精細度の問題が解決し、スマートフォン市場におけるシェアも一気に拡大するだろう。

 (2)大型基板にも対応できる。このため、有機ELテレビを実現した場合に、「白色有機EL+カラー・フィルタ」方式に比べて、低消費電力化で圧倒的に優位に立てる可能性がある。

 このようにソニーのハイブリッド有機EL技術は、有機ELパネルの性能を最大限に生かしながら、従来の蒸着塗り分け方式では実現できない高精細化や大型化が狙える。この技術の今後の発展に大いに期待したい。

写真1 ソニーの3型VGA、270ppiの「ハイブリッド有機ELパネル」
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動画 動画1 ソニーの3型VGA、270ppiの
「ハイブリッド有機ELパネル」の表示映像
(約12秒の動画)

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 この発表に限らず、ソニーは今回様々な技術を用いてパネルを試作してオーサーズ・インタビューで展示していた。そのため、毎回大勢の聴衆が詰めかけて会場が熱気に包まれていた。SIDにおける日本のFPDメーカーの存在感が薄くなりつつある中で、一人気を吐くソニーの心意気に敬意を表したい。日本の技術競争力を維持するためにも、是非ほかのメーカーにも見習ってほしいと思う。