パネル討論会の様子
パネル討論会の様子
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 「テレビとインターネットの融合」。この“古くて新しい”トレンドを巡る動きが、米国を中心に活発化している。

 例えば、動画配信サービスの「Netflix」の会員数が2000万人を超えるなど急拡大し、既存のケーブル・テレビ事業者を脅かしている。またテレビとしては、パソコンと同様に、オープンなインターネットにアクセスできたり、アプリケーション・ソフトウエアを再生できたりする「スマート・テレビ」などと呼ばれる新しいタイプのネット・テレビが複数登場している。

 こうしたトレンドは早晩、日本にも押し寄せてくるはずだが、国内のテレビ・メーカーやインターネットのサービス事業者は、それをどう見ているのか。ここでは、ヤフーの主催で2010年10月5日に開催されたパネル討論会「テレビ向けサービスの現状と未来」(「CEATEC JAPAN2010」の会場で開催した「Yahoo! JAPAN DAY」の1セッション)での議論の一部を2回に渡って紹介する。

 パネリストは1.パナソニック AVCネットワークス社 映像ネットワーク事業グループ 企画グループ グループマネージャーの和田 浩史氏、2.東芝 ビジュアルプロダクツ社TV&ネットワーク事業部TV商品企画部参事の松本 健治氏、3.TSUTAYA TV 執行役員COOの渡邊 健氏、4.ヤフー R&D統括本部フロントエンド開発本部EveryWhere開発部の菅泉 尚史氏の4名。司会は、日経エレクトロニクス副編集長の内田 泰が務めた。

司会 テレビとインターネットの融合を巡る取り組みは、既に10年以上の歴史がありますが、それが消費者の購入動機になるほど大成功を収めたものはないと思います。この要因をどう分析されていますか。

和田 パナソニックとしては、10年以上も経っているのに成功していないとはまったく思っていません。当社でもこのテーマには10年以上前から取り組んでいますが、最初から「これは10年はかかる」と思ってやってきました。というのも、そこにはインターネットの通信速度、放送事業者の対応、新たなビジネス・モデルの創出など、乗り越えるべき多くの課題があるからです。
 だから、大きな課題があるから前進していないというよりも、課題が徐々にクリアされて前進していると認識しています。

 最近ではiPhoneやAndroid、iPadなどインターネットにつながるデバイスが、パソコン以外にも数多く普及してきました。インターネットにつながるテレビの世界が花開くのも、決して遠い世界ではないと思っています。

渡邉 テレビなどに向けたVODサービス「TSUTAYA TV」を立ち上げたのは2008年6月6日です。サービス事業者としての立場からは、まだプロモーションが不足していると感じています。このテレビをインターネットにつなげれば、TSUTAYA TVのコンテンツが見れることを知っている消費者がまだまだ少ない。

 国内ではテレビのインターネット接続率は、TSUTAYA TVの立ち上げ当初は10%でしたが、直近では20%近くまで上昇しています。ただ、それがなぜ50%とか、80%にならないのかというと、単にテレビやインターネットのインフラの問題だけではないと思います。こうした問題はようやくクリアされつつあるのですが、逆にいうとスタートラインにたったのが2010年、もしくは2011年になるのだと思います。

松本 ここ数年で、新規に発売されるテレビにはLAN端子が装備されるようになってきました。東芝では一番下のクラス以外のテレビにはLAN端子が付いています。光ファイバーなどブロードバンド環境も整備されている。ネット・テレビの普及に必要な駒は揃っていると思います。
 
 ただし、最初にテレビをインターネットに接続してもらうためのフックはまだ弱い。なぜ、パソコンはインターネットにつなぐのにテレビはそうではないのでしょうか。パソコンには電子メールやWebブラウジングといったキラー・アプリケーションがあります。テレビも、そういうキラーとなるアプリケーションが必要だと思います。

菅泉 皆さんのお話を聞いていて、問題意識を共有していると感じました。松本さんがご指摘されたキラー・アプリケーションが十分ではないという課題も、まさにその通りだと思います。

 ところで、パソコンの世界では、インターネットのページ・ビューの伸びはここ数年、少しずつ鈍化しています。一方で動画の再生回数はかなり大きく伸びています。パソコンではインターネットにアクセスして情報を探すという使い方とともに、時間消費型、つまりひまつぶしのような使い方がどんどん伸びています。まさにこれはテレビに親和性が高いと思います。時間消費型のサービスに、テレビの使いやすさを組み合わせれば、大きく成長するのではないかと思います。

司会 インターネットの動画配信については、以前はコンテンツ不足も指摘されていましたが、その状況は変わってきていますか。

渡邊 TSUTAYA TVは既に、ハリウッドの大手スタジオ6社、北米の4大ネットワークスのすべてと契約しています。残念ながら映画などのパッケージ・ビジネスが一部シュリンクするなかで、ハリウッドの大手スタジオなどコンテンツ・ホルダーもデジタル媒体を新たな収入源として期待し、そのビジネスを強化しているのは事実です。

 例えば、3年前と現在では、「ウインドウ・コントロール」が大きく変わりました。3年前は、レンタル店でパッケージが発売される日から90日後でないとVODの権利が与えられませんでした。しかし、2010年3月から徐々に始まっているのは、「デイ・アンド・デイト」といって、レンタル店と同じ日にVODが解禁されるウインドウ・コントロールです。私が知る限り、2010年内に4社、最大5社ぐらいがこれに踏み切るようです。こうなると、レンタル店に行くとよく経験する「貸し出し中」が物理的になくなる。だからネット・テレビを買いたい、テレビをインターネットに接続したいと考える消費者が増えればいいと思っています。

司会 一方で、国内のコンテンツ・ホルダーの意識はどうでしょうか

渡邊 VODの品揃えで一番困るのは、実は邦画です。最近の映画は基本的に「制作委員会方式」を採用しています。例えば10社で10%ずつ出資して映画を制作している場合、パッケージの幹事会社はA社、放送権の幹事会社はB社ときまっているが、VODの幹事会社が決まっていないケースも多々ある。ウインドウに関しては、最短でも12ヵ月となっており、お店の在庫数の1/50の権利処理しかなされていないのが現状です。

 (その2に続く