「一時的には需要が増えると見ている。今後は、サーバーやストレージ装置用の上位機種向けに注力したい」。

 TDK 代表取締役社長の上釜健宏氏は2011年4月27日に開いた同年3月期の決算説明会で、今後の見通しをこう話した。この2カ月ほどで業界再編が急速に進んだハード・ディスク装置(HDD)分野についてのコメントだ。

 HDD業界では、2011年3月に日立製作所がHDD事業を米Western Digital(WD)社に約43億米ドル相当で売却することを発表。その後、同年4月には米Seagate Technology社が、韓国Samsung Electronics社の同事業を13億7500万米ドルで買収することを決めた。独占禁止法関連の規制などをクリアできれば、この4社に東芝を加えた5社体制から、一気に3社が市場を分け合う体制になる。

業界再編で「1+1=2」にはならない

 TDKは、磁気ヘッドを専業でHDDメーカーに外販する唯一の部品メーカーだ。それだけに、今回の業界再編の影響は大きい。Seagate社とWD社は磁気ヘッドの内製比率が高いことに加え、TDKはSamsung社向けに販売する磁気ヘッドが多い。このため、TDKが今後苦戦するとの指摘は少なくない。上釜氏は「大きな揺れが立て続けに起きた印象だ」と、このところの業界再編の動きを表現して見せた。

 「ただし」と同氏は続けた。「HDD業界では、これまでの再編でも『1+1=2』にはならなかった。今回も同じだろう。今後、東芝の市場シェアが20%程度まで高まると見ている」。

 これは、東芝の市場シェアのほぼ2倍の数字だ。買収劇の中にある4社の市場シェアを単純に合算すると9割弱と見られている。買収で生まれる新生HDDメーカー2社から、東芝が10%程度のシェアを奪うという計算である。

 東芝は、TDKにとって大口顧客の1社。期待は大きい。それを差し引いても、東芝のシェアが高まる方向に進むことは、決して期待ベースだけの話ではない。歴史的に見れば、HDDメーカーの合併で生まれた新会社は市場シェアを落とすことが常だったからである。TDKは、HDDメーカー数が減ることを引き金にパソコン・メーカーなどが調達体制を見直して、HDD供給のセカンドソースを確保するように動くのが必至だとみる。