TDKによれば、今回の業界再編でパソコン・メーカーによっては、購入するHDDの7割ほどが1社供給になってしまうところも出てくるという。このため、パソコン・メーカーでは既にHDD購入先を分散する動きが出始めているようだ。結果、「東芝は今、増産体制に入っている」と、上釜氏は話した。

 ただ、業界再編による磁気ヘッドの受注増が継続的に続くかどうかは不透明だ。状況が落ち着けば、磁気ヘッドを内製するHDDメーカー2社が大きなシェアを占める事実だけが残る。その後にTDKが期待を寄せるのは、クラウド・サービスの活発化で市場拡大が期待できるサーバーやストレージ装置などデータセンター向けのHDD上位機種だ。

 「高記録密度で、高速、省エネという特徴を備えたHDDの需要は今後、これまで以上に増える。日本の震災の影響でストレージ装置の考え方は変わるだろう。SSDとHDDを組み合わせる技術が必要になるし、大切なデータを失うリスクを分散するためにデータセンターの顧客が求める記録容量も増えるはずだ」。上釜氏は、こう指摘する。

「ノート・パソコンではHDDは使われなくなるだろう」

 HDD上位機種向けでTDKが武器にしたいと考える技術は、2012年度に実用化を目指す「熱アシスト記録方式」を使った磁気ヘッドである。同方式は、近接場光などで記録媒体を加熱して磁気ヘッドによる記録を補強する技術だ。TDKは、2.5インチ型ディスク1枚当たり1Tバイトの記録容量からこの技術を実用化したい考えである。

 「熱アシスト方式を早く業界標準にし、技術の優位性を保ちたい」と、上釜氏は意気込む。「いずれ、ノート・パソコンではHDDは使われなくなるだろう。だからこそ、クラウド側のストレージ市場に積極的に出ていく」。

 TDKの2011年3月期連結決算は、売上高が前の期に比べ8.3%増の8757億円、営業利益は同じく約2.5倍の638億円と増収増益だった。東日本大震災の影響は、売上高で約11億円、営業利益で約18億円の減少にとどまった。

 牽引したのは、スマートフォンやタブレット端末などでの受動部品の需要増だ。受動部品分野の売上高は18.2%増の4311億円、営業利益は前の期の103億円の赤字から247億円の黒字に転じた。

 一方、磁気ヘッドなどの記録デバイス事業を含む磁気応用製品分野は、営業利益が469億円と微増だったものの、売上高は前の期比で4%減の3685億円と減収だった。このうち、記録デバイス事業の売上高は2575億円と前の期比で8%減った。磁気ヘッドの単価下落と円高の影響を受けた格好だ。

 好調な受動部品が業績を支える間に、いかにHDD上位機種向けの先端技術を早く世に問うか。業界再編で磁気ヘッドを売り込む先が減ることはほぼ間違いない中、TDKの磁気ヘッド事業はライバルでもあり、顧客でもあるHDDメーカーを技術力で取り込む足場づくりを模索している。