NECカシオモバイルコミュニケーションズが、NTTドコモの2011年春モデルとして開発したスマートフォン「MEDIAS N-04C」。同社として初めて、米Google社のソフトウエア基盤「Android」を採用したこの端末は、ワンセグやFeliCa、赤外線通信という日本でお馴染みの機能を搭載しながら、最薄部の厚さが7.7mmと薄いのが特徴だ(Tech-On!関連記事)。3G対応の携帯電話機として「世界最薄」をうたう。MEDIASの開発の経緯や実現技術について、NECカシオモバイルコミュニケーションズ 共通基盤開発本部 グループマネージャーの尾崎和也氏と同 マネージャーの志摩誠氏、同 技術マネージャーの白石充孝氏に聞いた。

図1 最薄7.7mmのAndroidスマートフォン「MEDIAS N-04C」

圧倒的な薄さを実現したい

 MEDIASの企画・開発は、旧NECの携帯電話機部門で2009年の12月末ごろに始まったという。これまでにもNECは、2005年に海外向けのGSM対応携帯電話機「e949」で最薄11.9mmの厚さを実現したのを皮切りに、国内市場では2007年に最薄11.4mmの「N703iμ」(NTTドコモ向け)、2008年に最薄9.8mmの「N705iμ」(NTTドコモ向け)を発売するなど、折り畳み型の携帯電話機で薄型モデルの開発を進めてきた。同社として初となるAndroidスマートフォンを開発するに当たり、「特徴を出す意味でも薄型モデルを開発しようと思った」(尾崎氏)という。

 開発の初期段階で、7.7mmという最薄部の厚さは決定されたという。「普通に考えると7.9mmになりそうだが、競合他社が追随してくる可能性がある。しかも、7.9mmだと8mm代の端末との差が分かりづらくなる可能性もある。やるからには、競合端末に対して1mm以上の差を付けたい。最終的には、ゴロが良いので7.7mmに決まった」(尾崎氏)。NTTドコモから2011年春モデルとして同時期に発売された、日スウェーデン合弁のSony Ericsson Mobile Communications社製の「Xperia arc SO-01C」は最薄8.7mmであることを考えると、こうした考えは功を奏したといえそうだ。

図2 左からNECカシオモバイルコミュニケーションズ 共通基盤開発本部 グループマネージャーの尾崎和也氏、同 マネージャーの志摩誠氏、同 技術マネージャーの白石充孝氏

強度は従来機種以上

 NECカシオモバイルコミュニケーションズでは7.7mmという薄型化の実現に向けて、「従来のN703iμやN705iμで実施した技術を盛り込んだ」(尾崎氏)という。ただし、MEDIASは表示部が常に露出しているストレート型端末であるため、折り畳み型端末だったN703iμやN705iμ以上の強度が求められる。薄型化と強度を両立するためには、「これまで以上の対策が必要となった」(白石氏)。

図3 MEDIASの内部構成(NECカシオモバイルコミュニケーションズの資料)
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 MEDIASでは、筐体中心にあるフレームの上側に強化ガラスやタッチ・パネル、液晶パネルなどを、下側にメイン基板やLiイオン2次電池、アンテナ類などを配置する。中心にあるフレームは、ステンレス性の基板の周辺を、ガラス繊維で強化されたナイロン系樹脂で一体化した「ハイブリッドフレーム」と呼んでいるものだ。「従来の薄型モデルでも使用されており、樹脂と金属を一体化する技術は国内のモールド・メーカーと開発した」(白石氏)という。MEDIASではさらに、筐体の左右の部分にAl合金製の「サイドアルミフレーム」を搭載することで、「曲げに対する剛性を確保すると同時に、端末のデザイン性を高めた」(同氏)。

 搭載する液晶パネルの厚さは、「非公開だが従来の薄型モデルと比べて、遜色ないほど薄いものを採用した」(尾崎氏)という。表示部の前面には、米Corning社の強化ガラスである「Gorillaガラス」を施した。液晶パネルとタッチ・パネル、強化ガラスはそれぞれ樹脂で一体化されていないが、「折り畳み型だった従来の薄型モデルに比べて強度は増している」(同氏)という。

電池容量は割り切りの一つ

 一方、メイン基板やLiイオン2次電池、アンテナ類などの部品は、筐体中心にあるフレームの下側の同一平面に隙間なく配置されている。旧NECでは「ブロック実装」と呼んでいる手法だ。「放熱性を高めるために、フレームのわずかな隙間にはグラファイト・シートを貼っている」(志摩氏)。

図4 筐体下側の部品配置の概略(NECカシオモバイルコミュニケーションズへの取材を基に本誌が作成)

 搭載されるLiイオン2次電池の容量は、1230mAhである。競合他社では、容量が1500mAh程度のLiイオン2次電池を搭載するスマートフォンも多い。「1500mAhだと厚さが8mmを超えてしまう可能性があった。薄型モデルということで、割り切った部分の一つ」(尾崎氏)という。消費電力を抑えるため、プロセサには最大動作周波数が800MHzである米Qualcomm社製の「Snapdragon」(型番は「MSM7230」)を採用した。「動作周波数を落としても快適に操作できるように、ソフトウエアは最適化を図った」(同氏)とする。

メイン基板は特殊形状に

図5 アンテナは4段構成に
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 Liイオン2次電池の容量を抑えたとはいえ、フレーム下側にその他の部品を配置できる領域は限られている。ワンセグ受信用のロッド・アンテナは、格納時の長さを短くするために、一般的な3段構造から4段構造に変更した他、アンテナの直径も1mm程度細くしている。


 さらにメイン基板では、一般的な四角形に近い形状ではなく、Liイオン2次電池の2辺を取り囲むような特殊な構造を採用。「基板の切り出し効率を考えるとコストは高くなるが、必要なLSIをすべて実装するためには選択せざるを得なかった」(尾崎氏)という。メイン基板は、筐体の表側(表示部側)にRF処理回路やアプリケーション処理回路、FeliCa用回路などを、裏側に電源回路やワンセグ・モジュール、無線LANモジュール、SIMカード用スロット、各種センサ類などが実装されている。放熱性を高めるため、「シュミレーション・ソフトで数十通りの部品配置を検討した」(志摩氏)という。

 薄型化を実現するために、割り切った部分はLiイオン2次電池の容量以外にもいくつかある。その一つがカメラだ。MEDIASに搭載するCMOSカメラは有効画素数が約510万であり、筐体背面を平らにするために画素数を抑えた。さらに、NECカシオモバイルコミュニケーションズでは、約0.6秒で撮影できる1220万画素カメラ搭載の「N-06B」(NTTドコモ)をはじめ、カメラの起動時間にこだわりを持つ。しかしこうした機種では、「プロセサとは別に高速撮影を実現するために専用のDSPが必要となる。MEDIASでは、専用のDSPを実装するスペースを確保するのが難しかった」(志摩氏)とした。