<b>背面カメラ・モジュール基板(右)と、メイン基板との間を結ぶケーブル(左)</b><br />この基板の上端に背面カメラ・モジュールが取り付けられている。ケーブルには、ロック機構を備えたコネクタを持つ細線同軸ケーブルを採用している。
<b>背面カメラ・モジュール基板(右)と、メイン基板との間を結ぶケーブル(左)</b><br />この基板の上端に背面カメラ・モジュールが取り付けられている。ケーブルには、ロック機構を備えたコネクタを持つ細線同軸ケーブルを採用している。
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&lt;b&gt;背面カメラ・モジュール基板の下端にある二つのチップ&lt;/b&gt;&lt;br /&gt;上が3軸角速度センサ、下が3軸加速度センサだと思われる。
<b>背面カメラ・モジュール基板の下端にある二つのチップ</b><br />上が3軸角速度センサ、下が3軸加速度センサだと思われる。
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 iPad 2の内部構成では、左右非対称であること以外にも不可解な点があった。背面カメラ・モジュールを搭載した基板とメイン基板が遠く離れており、筐体内部を横断するようにケーブルで接続されていたことだ。日本メーカーの製品であれば、ケーブル長をなるべく短くするために、カメラとメイン基板は近くに置くのが普通である。外観デザインや「背面カメラによる撮影時にカメラが右側にあること」にこだわったのかもしれない。

 ケーブルには、通常のフラット・ケーブルではなく、コストが掛かっていそうな細線同軸ケーブルが使われていた。ケーブルが長くなった分、カメラへの雑音の影響が大きくなるのを抑えるためではないか、と技術者は推測する。

 背面カメラ・モジュール基板の不可解な点は、メイン基板から離れていることだけではない。実は、メイン基板には搭載されていなかった加速度センサと角速度センサ(ジャイロスコープ)は、背面カメラ・モジュール基板の下端に搭載されていたのだ。加速度センサがこのように偏った位置に置かれているのは特に問題ない。一方、角速度センサは筐体の回転を検知するものなので、端末の中央付近に実装するのが定石である。おそらく、角速度センサが端にあることによる数値のズレは、ソフトウエア的に補正していると考えられる。

 なぜ米Apple社がこのような構成を採用しているのかは謎である。考えられるとすれば「薄さへのこだわり」だろう。筐体の中央部はLiポリマ2次電池が占めているため、ここに角速度センサを置こうとすると、どうしても厚みが出てしまう。ただし、それであれば角速度センサをメイン基板に搭載してもよかったはずだ。

 今回のiPad 2の分解では、Apple社の設計思想が日本メーカーのそれとは明らかに違うことが見て取れた。おそらく、同社特有の美意識に従ってさまざまな特徴や機能の優先順位が決まっており、それを実現することを最優先した構成になっているのだろう。従来の「コスト重視や(仕様上の)機能重視」の考え方で開発された製品が、このような製品と果たして互角に戦っていけるのか、考えさせられた分解だった。

 なお、分解の詳細については、日経エレクトロニクス2011年4月4日号のNEレポート「新型タブレット『iPad 2』を分解、薄型化の秘密は両面テープ」に掲載した。併せてお読みいただければ幸いである。

【訂正】
 本文の「加速度センサがこのように偏った位置に置かれているのは特に問題ない。一方、角速度センサは筐体の回転を検知するものなので、端末の中央付近に実装するのが定石である。おそらく、角速度センサが端にあることによる数値のズレは、ソフトウエア的に補正していると考えられる」の部分は、ある技術者の「角速度センサが端末の端に実装されている点は不思議だ。加速度センサが端なのは問題ないが、角速度センサは普通なら、端末の中央付近に実装するはず。筐体の回転など、ユーザーの操作を理解するにはその方がやりやすいはずだ」というコメントに基づいて記述しました。
 これに対し、「角速度センサは置く位置に依存しないのでは」という指摘をコメント欄や読者サービスセンター経由でいただきました。たしかに、原理的に角速度センサは回転体のどの部分に位置していても角速度を検出できます。また、「角速度センサより加速度センサの方が位置の影響を受けるのではないか」との指摘もいただきました。お詫びして訂正いたします。なお、本文はコメント欄との整合性を取るため、そのままにしてあります。