CMC標準モデル CMCのデータ。
CMC標準モデル CMCのデータ。
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 半導体理工学研究センター(STARC)は,同社と広島大学三浦研究室が共同開発した,回路シミュレーション用のMOSトランジスタ・モデル「HiSIM2:Hiroshima-university STARC IGFET Model 2」が,国際標準になったと発表した(ニュース・リリース:PDF)。回路シミュレーション用トランジスタ・モデルの国際標準化機関である「Compact Model Council:CMC」が,2011年3月31日と4月1日に米国のサンフランシスコで開催した会議で,バルク基板のMOSトランジスタのCMC標準モデルにHiSIM2を選定した。

 HiSIM2は,MOSトランジスタのソースからドレインまでのポテンシャル分布を考慮した,いわゆるポテンシャル・モデルである(Tech-On!関連記事1)。1990年代に開発されたBSIMなど,トランジスタの内部をブラック・ボックスとして扱う,しきい値電圧モデルに比べてより正確にトランジスタの挙動を扱える。BSIM3やBSIM4は共に1990年代にCMC標準モデルに選ばれていたが,その後,微細化が進んだことで,精度や処理時間(収束性)の点で問題が顕在化し,CMCはBSIMに代わる次世代モデルを募った。

一度は敗れる

 2005年に行われた最終選考会議では,二つの表面ポテンシャル・モデルが残った。一つはHiSIM2で,もう一つはオランダRoyal Philips Electronics NVと米Pennsylvania State Universityが共同開発した「PSP (Penn State Philips)」である。この時は,CMCメンバーによる投票で,PSPがCMC標準になり,HiSIM2は敗れた。

 この時から,HiSIM2の復権に向けて,STARCや広島大学,および国内半導体メーカーなどの有志による活動が始まった。広島大学教授の三浦道子氏によれば,HiSIMとPSPの大きな違いは,HiSIMがキャリア濃度とポテンシャルの関係を記述したPoisson方程式を解いてポテンシャル分布を求めているのに対して,PSPはいくつかの近似式でポテンシャル分布を表わしていることである。このため,PSPは精度が悪い場合が多く,かつ処理時間も長い場合が多いという。同氏のこの主張が正しかったことは,その後のCMCの動きで証明されることになる。