東日本大震災の影響により、乗用車メーカーの工場の操業停止が長引いている。主な原因は部品の調達に支障が出ていることだが、それだけでは全ての工場を停止する理由にはならない。被災者への支援が十分に行き届いていない中で、早期の復旧には慎重な姿勢を取っていることがうかがえる。

 例えば、トヨタ自動車は2011年3月26日まで国内の全工場(傘下のボディメーカーを含む)で操業停止することを決めた。これで、同社は同月11日の震災直後から2週間も完全に生産活動を休止していることになる。

 ホンダも、ほぼ同様の状況だ。同社は、同月14日こそ2輪車の生産を行う熊本製作所(熊本県・大津町)を稼働させていたが、翌15日には停止。4輪車の工場は震災直後から止めたままである。既に、同月27日まで国内の全工場で操業停止することを決めた(乗用車メーカー各社の最新状況を、記事の末尾に掲載)。

思い出されるリケンの事例

 こうした状況は、2007年に発生した中越沖地震の対応とは大きく異なる。中越沖地震では、エンジンのピストンリングを製造するリケンの柏崎工場が被災し、生産を停止。同社のピストンリングを採用している国内の全乗用車メーカーが、組立ラインの一時停止を余儀なくされた。その際には、乗用車メーカー各社が技術者を現地に派遣し、地震発生の7日後という驚異的な速さで復旧させている。

 もちろん震災の規模や範囲が異なるので、単純に比較できないが、今回はそこまで極端な復旧への動きは見られない。被災した工場の損壊が激しいということもあるが、そもそも被災者の支援が思うように進まない中で、工場の復旧を優先させることをメーカーが自制している面もあるようだ。

 実際、リケンの事例では、真っ先に工場を復旧させようとするメーカーの姿が、一部住民の反感を買っていた。新潟日報2007年7月28日付朝刊の記事に、当時の様子が記されている。それによると、被災したリケンの柏崎工場で生産を再開するには、設備冷却用の水道水を供給する必要があった。このとき、柏崎市では地震後から途絶えていた水道水の供給が再開していたが、供給量は十分ではなかった。しかし、地元の有力企業であるリケンの復旧を重視した柏崎市は、工場周辺の住宅地に通じる水道管のバルブを閉めてまで、リケンへの供給を優先。その際、一部の住宅で水圧が下がって水が出にくくなるなどの影響が生じたのだ。

 従って、乗用車メーカーは早期復旧には慎重である。「被害を受けた各地域の復興支援が第1優先」(トヨタ自動車)、「被災地域の救援/復旧/復興に向けた取り組みに影響がない範囲で操業」(マツダ)といった具合に、自社の復旧を最優先させるのではなく、地域社会の復旧に合わせて少しずつ進めるという考え方に変わってきているのだ。復旧時期が遅れれば、それだけ業績などへの影響も膨らむが、それをもいとわぬ苦渋の決断といえる。今回の震災では、地域社会が受けたダメージも激しい。今後、メーカー各社は地域社会にも目を配りながら、自社や協力会社の復旧に取り組むことになる。

各社の最新状況

トヨタ自動車(2011年3月22日発表
 国内の全工場(ボディメーカー含む)を2011年3月26日まで操業停止。被害を受けた各地域の復興支援を第1優先とする。

ホンダ(2011年3月22日発表
 国内の全完成車工場を2011年3月26日まで操業停止。28日以降の予定は、社会的復興および部品供給の状況から判断する。

日産自動車(2011年3月20日発表
 同社追浜工場、栃木工場、九州工場、横浜工場、日産車体、日産車体九州で
2011年3月21日から補修用部品と海外向けの部品を生産、同月24日から部品在庫で対応可能な範囲で完成車の組立を行う。いわき工場では、復旧作業に着手する。サプライヤーからの要請があれば、支援する。自宅待機の従業員に対して、地域ボランティア活動への参加を推奨する。

スズキ(2011年3月23日発表
 被災地域で生産していた一部部品の安定調達が難しい状況が続いており、2011年3月25日までは4輪車の組立工場を操業停止。エンジン工場などでは、部品在庫を使って昼間のみ操業。具体的には、湖西工場(第一・第二工場)、磐田工場、および相良工場の軽・小型車の組立ラインを休止。相良工場の4輪車エンジンの組立ライン、豊川工場、高塚工場、大須賀工場は操業とする。26~27日は休日。28日以降はあらためて判断。

マツダ(2011年3月18日発表
 本社工場と防府工場で2011年3月22日から補修用部品海外向け部品を生産。部品在庫を使った完成車の組み立ても一時的に再開する。ただし、被災地域の救援/復旧/復興に向けた取り組みに影響がない範囲で操業。本格的な生産再開時期は、あらためて決定。

三菱自動車(2011年3月15日発表
 2011年3月16日から生産を再開。

ダイハツ工業(2011年3月22日発表
 基本的に国内の全工場で2011年3月24日まで操業停止。ただし、ダイハツ九州の大分第1工場で、部品在庫を使った操業を継続。

富士重工業(2011年3月23日発表
 国内の全工場で2011年3月24日まで操業停止。