米DisplaySearch社は2011年3月22日,フラットパネル・ディスプレイのサプライ・チェーンにおける東日本大震災の影響についての見通しを発表した(発表資料)。それによると,短期的にはパネル・メーカー数社は部材を調達してパネルの生産ラインを稼働し続けるために新たな供給元を確保することが必要となるという。長期的には,主要装置の生産が遅れる兆候があるとする。

 DisplaySearch社が見通しを示した部材や装置は,CVD装置のクリーニングなどに使うNF3と,TFT液晶パネルやタッチ・パネルに用いる透明導電膜ITOのターゲット材,カラー・フィルタに使う顔料,コネクタ,露光装置など。

 NF3のサプライヤーとしては,関東電化工業や三井化学をはじめとする日本企業の世界シェアはおおよそ30%あるという。東日本大震災や電力供給が不安定なことから日本のガス・メーカーによるNF3の生産に影響が現れ,いくつかのパネル・メーカーはNF3の調達がタイトになると,DisplaySearch社はみる。東日本大震災が起こる前からNF3の供給はタイトな状況であり,かつNF3の市場価格はかなり安いためにガス・メーカーは生産能力増強に消極的だったという。

 ITOターゲット材のサプライヤーとしては,JX日鉱日石金属と三井金属の日本メーカー2社で70%もの世界シェアを握るという。三井金属におけるITOターゲット材の生産工場は東日本大震災の影響はないものの,JX日鉱日石金属では生産工場が影響を受けた。パネル・メーカーは一般的に1カ月程度はITOターゲット材の在庫を確保しているとされるが,ITOターゲット材の確保に制約を受けるパネル・メーカーも出てくるとみる。

 顔料の日本メーカーとしては,DICが東日本大震災の影響を受けているとする。カラー・フィルタに用いる緑色顔料の供給にその影響が現れる可能性があるとみる。

 コネクタの日本メーカーとしては,ヒロセ電機や日本航空電子が東日本大震災の影響を受け,液晶パネル・モジュールでの電源用や映像信号用に使うコネクタが不足する可能性をDisplaySearch社は指摘する。

スマートフォン向けパネルの供給は逼迫状態が続くのか


 こうした部材について,パネル・メーカーは少なくとも数週間分の在庫を確保しているので,この期間中に他の供給元を確保すればパネルの生産を継続することができるとみる。だが,DisplaySearch社によれば,第4世代やそれ以前の世代のパネル工場に向けた,ニコンのステッパ(ステップ・アンド・リピート方式の露光装置)については新たな供給元を確保するのが難しいという。ニコンは東日本大震災により,生産工場に影響を受けたからだ(Tech-On!関連記事)。

 ニコンが市場シェアの大部分を占めるこのようなステッパは,アクティブ・マトリクス型の有機ELパネルや低温多結晶Si TFT液晶パネルの生産ラインで使われるため,これらのパネル工場に向けたステッパの出荷に遅れが出る可能性があるとDisplaySearch社はみる。これらのパネルは,スマートフォンなどでの需要が拡大しているために供給が逼迫状態にある。パネル工場の増強や新設が遅れると,逼迫状態が長引くことも考えられる。