欧州には有力な自動車メーカーが複数ある。さまざまな意味で家電製品に近づく自動車を支える,エレクトロニクス企業の数も膨大だ。低燃費の追求や,安心安全への対応,高度なメディア処理を実行する自動車用LSIの複雑化に対して,欧州勢がどう研究開発を進めていくのか。それを知ろうと,フランス・グルノーブルで開催中の「DATE 11」のチュートリアルを聴講した。

 このチュートリアルのタイトルは「Design and Verification Challenges for Automotive Electronics」(チュートリアル番号:E2)である。オーガナイザは,イタリアCentro Ricerche Fiat S.C.p.A.(以下CRF)のRiccardo Groppo氏。講師は独Infineon Technologies AG,フランスFreescale Semiconducteurs France SAS,伊仏合弁STMicroelectronics社,イタリアPolitecnico di Torinoから登壇し,Groppo氏も講師として話をした。

高速・低電力の両立が不可欠に

図1●自動車用LSIの設計と検証について語るRiccardo Groppo氏 筆者が撮影。スクリーンはCentro Ricerche Fiatのデータ。
図1●自動車用LSIの設計と検証について語るRiccardo Groppo氏
筆者が撮影。スクリーンはCentro Ricerche Fiatのデータ。
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 最も興味深かったのは,CRFのGroppo氏の講演だった(図1)。CRFはLSI/ICを購入して自動車用に最適に仕上げるミッションを負っている。同氏は,自動車エレクトロニクス向けの設計検証の重要課題について述べた。講演の冒頭では,自動車用半導体市場の規模が紹介された。2009年には165億米ドルだが,2016年には330億米ドルになると予想されるという。世界の中で欧州が一番大きな市場で,続いて米国,日本の順となる。自動車用LSIはASIC市場の10%を占める。

 かつて,自動車用LSIがエンジンへの燃料噴射のみを処理していた時代は,5-50ms程度の応答時間でよかった。それがオートマティック・トランスミッションの処理も行うようになると,1-2msの応答時間が必要になった。さらに,ハイブリッド車だと50-100μsと応答時間がさらに短くなったため,LSIの処理性能の向上が不可欠となっている。ただし,この高い処理性能を支えるための電力には限りがある。このため,メニー・コア化やリアルタイム制御,およびソフトウェア開発の工夫が不可欠だという。

 また,人命を預かっていることから,半導体製造からシステム開発まで全般的な品質向上が必須である。現在,一般的になった品質規格の「AEC-Q100」も,十分ではない時代になりつつある。最近では,新しい自動車安全標準化規格である「ISO26262」への対応が求められている。

 ただし,こうした性能や品質への要求に対応するための開発や検証の時間は限られている。そこでモデル化,Validation(検証),テスト,フォーマル検証などの利用が不可欠となっている。