【ISSCC】ヘルスケアやセンサ・ネットワーク向け回路技術が続々
「2011 ISSCC」のSession 2「Technologies for Health」は,WBAN(Wireless Body area network)用回路など様々なアプリケーションに向けた回路技術が議論され,人に優しい電子回路の一つの姿が示された。 特に今まで実験レベルで議論されていたWBAN用通信回路やグルコース・センサ,心臓ペースメーカ用回路などに対して,原理の明確化や信頼性の向上,低電力化といった,実用化を見据えた技術の議論が始まった。将来から現在の技術になりつつあることが見えたことで,参加者にも好評で大勢の立ち見ができた。
BANに関してKAISTが2件の発表
本セッションの8件の論文をアプリケーションで分類すると,(1)BAN,(2)ワイヤレス・モニタリング,(3)センサノード用タイマの大きく3つに分けられる。
このうち(1)のBANは,現在IEEEでの標準化が進んでいるほか,近年のISSCCでも毎年関連論文が発表されているなど,センサと近距離通信のホットなアプリケーションの一つになっている。
このBANに関して2件の発表をしたのは,韓国KAISTである。1件目のWBAN用の通信回路に関する論文は,今まで曖昧だった人体を媒介とした通信の理論とモデルを,実験を基に明確化した[2.1]。さらに,このモデルを用いて通信回路を設計し,人体通信に最適化したことで,WBAN準拠で0.24nJ/ビットという低電力化を実現した。
2件目は,睡眠障害治療のための睡眠センサに関する論文である[2.2]。睡眠センサは,顔の周囲に脳波や眼球運動,筋電位などを測定するセンサを複数配置して,各信号をモニタリングすることで睡眠状態を観測するものである。本論文では,センサ・チップやコントローラ・チップを洋服などに使うスナップ・ボタンに実装したノードを,布状基板で構成したひもに取り付けた複数のボタンに装着している。
これにより,任意の構成の有線センサ・ネットワークを構築できる。ひもに付けた複数のセンサとの通信を統括する通信手法についても提案しており,センサ・ネットワークの実用化を可能とする完成度の高い技術となっている。従来の睡眠センサに比べて,大幅な軽量化と低電力化を実現している。
UWBパルスで呼吸を観測
(2)のワイヤレス・モニタリング技術に関しては,コンタクトレンズ型グルコース・センサやUWBパルス・レーダー,THzイメージング,ワイヤレス心臓ペースメーカについての論文が発表された。
このうちグルコース・センサについて,米Washington大らが発表した。従来のセンサは,血液を採取して血糖値(グルコース)を測定していた。これに対してWashington大らは,涙に含まれるグルコースの量をコンタクトレンズに実装したセンサで測定する技術を発表した[2.3]。
本技術では,外部からワイヤレスで給電を行いながら,コンタクトレンズ内のセンサにて検出したグルコースの量を基に信号を送信し,外部機器でこの信号の周波数を測定することでグルコースの量を検出する。従来の血液を使う方式に比べて,約1/30の低電力化が可能となり,苦痛の無い連続した血糖値の測定ができる。
ワイヤレス呼吸観測技術は,アイルランドCork大らが,UWBパルスを用いたレーダーによる観測技術を発表した[2.4]。センサを人と向い合った状態で設置し,胸までの距離を連続して測定することで,呼吸の状態をワイヤレスで観測できるものである。
距離を測定するための信号として,従来の連続した信号ではなく,UWBパルスを用いることで,回路の構成を簡易化して送受信回路を1チップ化した。これにより,レーダーの低電力化と高精化を実現した。測距精度が高いため,小さな胸の動きの検出が可能であり,人間に負担をかけない呼吸観測を実現している。
THz波を用いたイメージングについては,仏CEA-LETI-MINATECらが発表した[2.5]。本論文では,THz波用アンテナとCMOSによるアンプを搭載した画素を,3×4のアレイ状に配置することで,イメージのセンシングを行なう。センサは300G〜1THzまでの信号に対応しており,アンテナの直近にCMOSを用いたアンプを搭載することで大幅な低電力化を実現している。
人体埋め込み型心臓ペースメーカでは,半永久的な埋め込みが可能となる技術を台湾国立中正大らが発表した[2.6]。無線で体の外からペースメーカの状態のモニタリングや調整といったデータをやり取りしたり,電力の供給が可能である。回路への給電を行いながら電池への充電を行う構成など,停止してはいけないペースメーカに対する実用的な技術が提案された。
原子時計を1チップ化
(3)のセンサノードは,一般的にホストとの通信は間欠的に行われる。他のノードとの混信を防ぐために,あらかじめ決められた時刻に通信を行なう通信方式が用いられる。ノードの数が多かったり,消費電力を減らす目的で通信間隔を長くした場合には,通信時間を管理するタイマに高い精度と少ない消費電力が要求される。
これを実現する技術として,温度依存性の小さい極低電力タイマを米Michigan大が発表した[2.7]。オシレータ回路の電流源としてトランジスタのゲートリークを利用し,低電力化を実現している。また,温度特性の異なるZVT(Zero Vth Transister)とPMOSとのリークを組み合わせることで,温度依存性を低減させた。さらに,実際の温度によって使用するZVTとPMOSの数を制御することで温度依存性を低減した結果,31ppm/℃を実現した。
このほか,小型原子時計を1チップ化する技術について,スイスCSEMが発表した[2.8]。原子(Rb87)にレーザを照射して,得られた光をフォトダイオードで電気変換し,その大きさでレーザの周波数を調整する「Frequency Locked Loop回路」を用いた。これにより,原子時計の1チップ化を実現した。













