TV Summitに登場した大手米テレビ局の幹部の一部。左からの順番:雑誌Variety,Assistant Managing EditorのStuart Levine氏,HBO,President of ProgrammingのMichael Lombardo氏,Fox TV Studio社,PresidentのDavid Madden氏,芸能プロダクションUnited Talent Agency,Managing PartnerのJay Sures氏
TV Summitに登場した大手米テレビ局の幹部の一部。左からの順番:雑誌Variety,Assistant Managing EditorのStuart Levine氏,HBO,President of ProgrammingのMichael Lombardo氏,Fox TV Studio社,PresidentのDavid Madden氏,芸能プロダクションUnited Talent Agency,Managing PartnerのJay Sures氏
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 「我々のコンテンツをインターネット上で自由に配信するのは,ある意味でケーブルテレビ事業者と競合することになる。我々の現在のビジネス・モデルを置き換えるようなこうしたサービスについて,消費者から現段階で要求があるとは思わない」。こう指摘したのは,ケーブルテレビ専用のテレビ局大手米HBO,President of ProgrammingのMichael Lombardo氏である。2011年2月15日に米国ロサンゼルスで開催された「TV Summit」と呼ぶイベントにおいて,テレビ業界関連の幹部の一人として登場した同氏は,動画をインターネット配信することは同社にとって難儀な選択肢であると語った。

 米国市場では,米Netflix社や米Hulu社といった大手コンテンツ企業による動画コンテンツのストリーミング・サービスの人気が高まっている。こうした中,「Over The Top Video(OTT)」と呼ばれる,ケーブルテレビで配信される動画コンテンツをインターネットに自由に「飛ばす」ことへの話題が活発である。Webサイトで視聴できる動画コンテンツをテレビ上で再生ができる「Google TV」が市場に登場したことに刺激され,OTTへの関心がさらに高まった(Tech-On!関連記事)。一方,HBOは,HBOのコンテンツをケーブルテレビで受信する契約を結ぶ顧客に対し,HBOのコンテンツをパソコンなどの端末でも視聴できる「HBO GO」と呼ぶ無料のサービスを2011年2月18日から開始した。Lombardo氏によれば,不景気などが原因で,各四半期に約25%のHBO会員が同社サービスの契約を打ち切る可能性があるという。「HBO GOによって弊社のサービスの魅力を向上させ,こうした悪い状況を好転できると期待している」(同氏)。

 TV Summitでは,テレビ・コンテンツ業界は現在のビジネス・モデルの限界が見えているとの指摘もあった。米Fox TV Studios社,PresidentのDavid Madden氏は,DVD関連の収入が減少傾向であると語った。「Netflixなどのインターネット配信が,こうした収入減にどの程度影響を与えているかはまだ不明だ」(同氏)。HBOのLombardo氏は,消費者の間でOTTが着実に広まっていると指摘する。テレビ・コンテンツ業界の現在のビジネス・モデルにおいて,テレビ番組の収入の約70%は同番組が放送された期間中に表示される広告から得ているという。「テレビの視聴率に依存する広告のビジネス・モデルの範囲を,OTTにも広げるのはかなり難しい」(Lombardo氏)。

Nielsen社:「『コード・カッティング』がまだ登場していない」

OTTによって低価格でコンテンツを手に入れられるサービスが普及すると,ケーブルテレビの契約を打ち切る,いわゆる「コード・カッティング」に踏み切る消費者が増えるのではないかと,テレビ・コンテンツ業界は懸念する。コード・カッティングが広まると,テレビ・コンテンツ業界がケーブルテレビから得られる収入が脅やかされるからだ。米国でテレビ視聴率を調査する米The Nielsen Co.,Media Product Leadership,Executive Vice PresidentのCheryl Idell氏は,同社の最新調査データをTV Summitで紹介した。「我々の調査結果では,コード・カッティングの影響はまだ見えていない」(同氏)という。

 Nielsen社の調査によれば,米国人は平均的に,テレビを1週間当たり35.6時間見ている。ケーブルテレビの契約を打ち切るよりも,ケーブルテレビから衛星テレビ,あるいは電話事業者が提供する有料のテレビ・サービスにシフトしている傾向があるという。例えば,2010年1月の段階で,米国家庭の56.1%はケーブルテレビの契約をしていた。この数値が,1年後の2011年1月に54%に落ちた。その一方,電話事業者のテレビ・サービスを契約する家庭は2010年1月の段階で5.2%だったのに対し,2011年1月になると6.6%に上昇した。電話事業者や衛星テレビの運営者は奨励金を設定しており,ケーブルテレビからの契約の乗り換えの追い風になっているという。

 コード・カッティングが該当する,地上放送とブロードバンド接続のみの米国家庭はまだ4.4%にとどまる。ただし,契約家庭の割合は年齢層で大きな差がある。世帯主が45~54歳の場合,契約家庭の割合は4.5%である。これが25歳未満になると,8.5%に跳ね上がる。Idell氏は,こうした差が生まれる原因として,若者の収入が比較的に低いことを挙げた。だが,Idell氏の見解について,OTTに向けた代表的な製品「Boxee」(Tech-On!関連記事)を展開する米Boxee社,Business Development,Vice President兼Co-FounderのGidon Coussin氏は疑問視する。「思春期になる前からインターネット接続を楽しんでいた若者世代は,他の世代とニーズが全く異なる」(同氏)。