富士フイルムのR&D統括本部フェローの青合利明氏は,「nano tech2011 国際ナノテクノロジー 総合展・技術会議」の展示会のメインシアターに2月18日に登壇し,「富士フイルムのナノ材料開発戦略」というタイトルで講演した。銀塩写真用フィルムの開発で培った技術を,ナノ材料の開発に適用した成果などについて語った(図1)。

 同氏によれば,カラー写真用の銀塩フィルムの需要は2000年をピークに減少の一途をたどった。「減少することは我々も予想していた。しかし,そのスピードは想定以上だった」(同氏)。同社の業績はフィルム需要減と共に悪化し,第2の創業を標榜した改革が2006年に本格化した。

図1●カラーの銀塩写真フィルムに存在する&\#034;ナノテク&\#034;を紹介する青合利明氏 Tech\-On!が撮影。スライドは富士フイルムのデータ。
図1●カラーの銀塩写真フィルムに存在する"ナノテク"を紹介する青合利明氏
Tech-On!が撮影。スライドは富士フイルムのデータ。
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図2●連結売上高の変化 写真フィルムの比率は下がったが,売上高は大きく伸びた。スライドは富士フイルムのデータ。
図2●連結売上高の変化
写真フィルムの比率は下がったが,売上高は大きく伸びた。スライドは富士フイルムのデータ。
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2006年に社名から「写真」が消えた

 この年に社名から「写真」がなくなり,企業ビジョンは「映像と情報の文化」を核にした内容から,「クオリティ・オブ・ライフ」を中心とした内容に変わった。企業ビジョンの変化には,銀塩写真フィルム中心から,複数の新たな事業領域へと転換を図る方針が盛り込まれている。狙う事業領域は,高機能材料,光学デバイス,ドキュメント,グラフィック・システム,メディカル・システム/ライフ・サイエンスの五つである。そして,R&Dの体制も変わり,いわゆる中央研究所に当たる「先進研究所」を設立した。

 「第2の創業」の活動はすでに成果を出している。2010年3月期の連結売上高に占める写真フィルムの比率は1.5%と2000年3月期の19%から大きく減少したが,2010年3月期の全社の連結売上高は2兆1817億円と2000年3月期の1兆3488億円と62%も伸びた(図2)。青合氏は,こうした事業構造改革や売上高の増加の基盤になっているのが,銀塩/非銀塩の写真材料技術だとした。

 その代表が写真感光材料技術である。富士フイルムが作ってきた銀塩カラー・フィルムは,180μmのベースに20層構成の感光層を形成している。各層の厚さは1.2μm以下で,感光層全体では20μmの厚さになる。銀塩カラー・フィルムには100種類以上の有機化合物が使われている。材料を均一に塗布する技術などを駆使し,精密な形状と実質的に無欠陥の銀塩カラー・フィルムを製造した。これで,基本的的にどのカメラでも問題なく使える製品を供給してきたという。