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 デンソー半導体先行開発部部長の石原秀昭氏が,半導体シニア協会(SSIS)が主催した春季特別講演に登壇,「自動車産業と半導体~環境の世紀における技術革新とそのエコシステム」と題して自動車向けエレクトロニクス技術の動向を論じた。100年の歴史を経てきた自動車は低炭素社会や地球環境保全への要求と期待を受け,その動力源として化石燃料から電気へという大きな転換期を迎えている。ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)に関連した各種技術が実用化の段階に入ってきた。以下では,同特別講演における主な発言を抜粋している。

時代感:「2000年以降はカー・エレクトロニクス第2幕」

 同氏はまず,これまでの自動車の歴史をエレクトロニクス化の観点から三つの時代に分け,現在を「カー・エレクトロニクス第2幕」と位置付けた。最初の時代は1980年以前であり,この時期を「プレエレクトロニクス時代」とした。すなわち,機械技術と内燃機関によってクルマを進化させた時代である。この時代には,マイコンなどは搭載されていない。

 次の時代が1970~2000年の「カー・エレクトロニクス第1幕」である。マイコンの応用,センサやアクチュエータの進化により,自動車の個別機能をエレクトロニクス化していった。この具体例として,1973年の個別半導体による燃料噴射機構のエレクトロニクス化,1979年の同機構のIC化,1983年の12ビット・マイコンによるプラグ点火制御機構やアイドリング回転数制御機構などのエレクトロニクス化,などを挙げた。

 最後の時代が2000年以降の「カー・エレクトロニクス第2幕」である。この時代になると,クルマ全体のエレクトロニクス・システムを統合したり,クルマと外界のシステムをつないだりするようになってきた。これにより,従来では実現できなかった超低燃費走行や機能安全,クルマ社会のスマート化などを実現していく。なお,2000年以前にも複数の機構を統合する動きはあった。しかし,その手法は個々の機構をエレクトロニクス化した後で,互いに接続するといった手法が一般的だった。これに対して第2幕では,開発初期段階からクルマ全体のシステムを一体設計して超低燃費走行を実現したり,外界の情報を組み合わせて超低燃費走行する仕組みを取り入れたりしている。

開発・製造体制:「完全なモジュラー型には疑問」

 クルマのエレクトロニクス化に伴い,一般的なエレクトロニクス製品と同様,自動車分野でもモジュラー型の開発・製造体制に移行するのではないかという見方が出ている。これに対し,石原氏は完全なモジュラー型への移行には疑問を呈した。その一方で,今後の伸びが期待されている新興市場はモジュラー型と指摘,日本メーカーも対応していかなければならないとした。

 完全なモジュラー型の移行に対しては,自動車は何トンもある物体が公共社会の中で走り回ることを意味や危険性を十分に理解すべきであるとした。すなわち,このような状況に対する安全性の確保の観点から完全なモジュラー型への移行には疑問があるという意味である。また,モジュラー型の開発・製造に関連した発想は欧州発で登場することが多く,このような発想では日本メーカーの良さや強みが出にくいと指摘した。これに関連し,モジュラー型の欧州を“ショッピング・モール”,すり合わせ型の日本を“専門店”と表現する。

 その一方で,今後の伸びが期待できるアジアを中心とした新興市場,特に中国やインドの考え方は欧米に近く,このような状況への対応を日本メーカーは迫られているとした。ここでカギとなるのは,どの部分をモジュラー化するか,どのようにモジュラー化するか,といったことに対する戦略的な対応である。モジュラー化が進んでいる欧州自動車メーカーは新しい付加価値を持った部品は高くても購入する傾向が強い。このため,日本メーカーとしての良さを失わずに,モジュラー化に対応した製品や技術を実現できれば良いことになる。また日本の半導体メーカーの多くが台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.(TSMC)などのSiファウンドリーに生産委託するようになった状況について,ユーザーの立場から「非常に心配」とコメントした。