『ユーザから見た携帯電話の省エネ技術~スマートフォンへ向けた取り組み~』というタイトルのディスカッションが,EDS Fair 2011(1月27日と28日にパシフィコ横浜で開催)の特設ステージで行われた。28日の16:00pmスタートという閉場間際のセッションにもかかわらず,170名以上の聴講者を集めて盛況だった。

3名の講演者 日本エレクトロニクスショー協会が撮影。
3名の講演者
日本エレクトロニクスショー協会が撮影。
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 モデレータは,組み込みシステムのハードウェアとソフトウェアの両方に精通する立命館大学の冨山宏之氏(理工学部教授)が務めた。講演者は3名。すなわち,SoCベンダーの立場でルネサス モバイルの入田隆宏氏(モバイルマルチメディア事業本部 SoC事業部 モバイルSoC設計第一部 担当部長),セット・メーカーの立場で富士通研究所の山下浩一郎氏(プラットフォームテクノロジー研究所 主任研究員),サービス事業者の立場でNTTドコモの神山剛氏(先進技術研究所)がそれぞれ意見を述べた。

省エネは重要な裏方作業

 ディスカッションのテーマは,ユーザーから見た省エネ技術である。すなわち,SoCのユーザーであるセット・メーカー,および携帯端末のユーザーであるアプリケーション開発者やエンド・ユーザーにとって使いやすい省エネ技術を考えることが主題だった。ところが,最初の講演者である入田氏から,いきなり主題を否定するような意見が出た。すなわち,「省エネ技術のコンセプトは『ユーザからは見えない』。すなわち,エンド・ユーザが意識しなくても省エネで稼働することが重要だ」と同氏は話を切りだした。

 そして,使っていないハードウェア・モジュールの電源やクロックをこまめに自動停止する技術,およびCPUの電源電圧と動作周波数を自動で変更するDVFS(dynamic voltage and frequency scaling)技術について説明した。また,グラフィックス処理に特化した専用回路をSoCに搭載することにより,SoCのエネルギー消費を劇的に低減する技術を紹介した。これらの技術を使えば,SoCのユーザーは特に意識せずとも,SoCチップが省エネ動作をするという。

 二人目の講演者の山下氏は,システム開発の難しい現状を語った。同氏によれば,SoCの性能は年々向上しているものの,ソフトウェアを搭載してシステムとして組み上げると,SoCのポテンシャルが十分に引き出されていないことが多いという。こうした現状がある一方で,「コンパイラやOSの制御を少しチューニングするだけで,システムの性能が約20%向上する(結果的に電力効率も改善する)」という実験結果もあるとした。双方を示すことで,山下氏は,SoC開発と,システム・ソフトウェア開発およびアプリケーション開発を協調して行うことが重要であると訴えた。

 最後の講演者である神山氏は,アプリケーションの電力を「見える化」する技術を紹介した。最近,アプリケーションの消費電力が急激に増加していることを背景に,この技術を開発したという。特に,GPS機能やナビゲーション・システムの消費電力が非常に大きいとする。これらを省エネ化することは,携帯端末ユーザーの満足度を向上させることに直結する。講演の最後に,Android搭載の携帯機器向けの開発環境における電力見積もりツールをデモンストレーションし,アプリケーション・プログラムの実行に合わせてその消費電力が機能ごとに表示される様子を見せた。