新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が研究開発資金を100%提供する委託事業である研究開発プロジェクト「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発」プロジェクトの知的財産ポリシーがこのほど、公表された。同プロジェクトに、特許庁などから派遣されてる知財プロデューサーの小野寺徳郎氏は「成果から産まれた特許などの知的財産は、プロジェクト参加機関以外にも、実施権ライセンスなどの技術移転を希望する機関・者には実施権を許諾するなどの知的財産ポリシーを立てている」と説明した。

 この説明は、2011年1月25日に東京都港区で開催された「国際特許流通セミナー2011」(主催は工業所有権情報・研修館=INPIT)の中で、「研究開発コンソーシアムの成果を事業化につなげる知財マネジメント 知財プロデューサーの挑戦」というパネル討論の際に解説されたものだ。小野寺徳郎氏はパネリストの一人として参加した。

 公表された当該知的財産ポリシーによると、(1)知的財産は希望者に対して広く活用させる、(2)知的財産は、同プロジェクトを運営する技術研究組合のBEANS研究所が一括管理し、知的財産パッケージ(IPパッケージ)を作成して一括ライセンスする、(3)同プロジェクトに参加した大学には不実施補償を考慮する――などの結構、踏み込んだ内容になっている点が特徴だ。

 (2)の一括ライセンスは、研究開発プロジェクトの研究開発の担当者(研究従事者)が産み出した特許などは、その担当者が所属する機関(企業や大学、公的研究機関など)に帰属するが、この当該特許の権利者(企業や大学など)はBEANS研究所に、サブライセンス付き非独占実施権を与えることで実現する。ただし、当該権利者は、保有する当該特許の実施権を独自の判断で第三者に対して許諾できるという制度の知的財産ポリシーになっている。

 2008年7月から5年計画で始まった、経済産業省などが支援する異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト(通称はBEANSプロジェクト)は、MEMS(微小電気・機械システム)とナノテクノロジー、バイオテクノロジーなどの異分野技術を融合させる基盤となる要素技術を開発することが目的になっている。これからの基盤技術を整え、日本でのイノベーション創出が盛んになることを目指している。このため、このプロジェクトから輩出される、多くの要素技術を基にして、さまざまな企業などが事業化を進めるためには、知的財産パッケージを一括ライセンスできる制度が不可欠になる。

 同プロジェクトは企業が15社、大学が9校、研究機関が2機関(産業技術総合研究所など)、団体が4機関参加している産学官連携プロジェクトである。かなりの数の機関(参加組織)が参加しているために、当該特許の権利者がそれぞれ持つ特許などをまとめた知的財産パッケージ(群管理)が必要になる。このため、特許庁と工業所有権情報・研修館は今年度に知財プロデューサーを派遣する試行事業を展開している。昨年12月まで同事業の責任者だった特許庁特許審査第二部の渋谷善弘室長(前・工業所有権情報・研修館人材育成部長)は、「現在、知財プロデューサーを8人、試行として各研究開発プロジェクトなどに派遣している」と説明する。最近、日本では「優れた技術を持っていながら、事業では勝てないのか」という声が高まり、これを打破するために“ナショナル・プロジェクト”の知的財産戦略などを十分に立案できる知財プロデューサーを派遣する方針を進めている一環として実施した。

 特許庁と工業所有権情報・研修館は、来年度の平成23年度から“知財プロデューサー”などの名称で本格的に派遣する「特許情報の高度活用による権利化推進事業」の事業内容を詰めている。同事業では、3種類の知財の専門人財を派遣する計画であり、その中で中核となるのは、革新技術向けの知財プロデューサー派遣事業である。技術組合などを設けて産官学研究開発プロジェクトを推進している研究開発コンソーシアムは、行政府などが提供する多額の研究資金を用いて、研究開発を推進している。

 このため、当然、多くの研究開発成果が産まれるが、その研究開発成果から産まれる知的財産に対して、知財戦略を的確に立案することによって、知財の権利内容を的確化し、当該企業などが事業化を推進する環境を整えることが重要になる。このために、知財プロデューサーなどの派遣によって、出口となる事業戦略を支援する知財戦略を練り上げ、その出口構想を基に進行中の研究開発戦略と強く連携させる三位一体の戦略を実現させる支援を実施する。

 当該研究開発プロジェクトの推進中は、強い“特許群”などの知的財産パッケージを作成するために、知財戦略を適宜、見直し、将来の事業展開の基盤づくりを強化する。この際は、当該事業の海外展開も見据えた知財戦略と事業戦略を構築し続ける。研究開発プロジェクトの終了が近づくと、得られた知的財産の管理方針と、各実施者の知的財産活用の指針を作成し、事業化する態勢を支援する。

 平成23年度に採用し、派遣する知財プロデューサーの人数は「20人程度は採用したい見通し」(特許庁の総務部企画調査課)である。派遣期間は、各知財プロデューサー自身は単年度契約の積み重ねになるが、当該の研究開発プロジェクトの実施期間をカバーする予定である。