東北大学などの8機関は、ネオジム高性能磁石の耐熱性を高めるDy(ディスプロシウム)の添加量を40%削減することにメドをつけた。この研究開発プロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が平成19年度(2007年度)から始めた希少金属代替材両開発プロジェクトの一環として実施されているもの。希土類磁石向けのDy使用量削減プロジェクトは、東北大、山形大学、物質・材料研究機構(NIMS)、日本原子力研究開発機構、三徳、インターメタリックス(京都市)、TDK、トヨタ自動車の8機関の共同研究であり、今回の研究開発成果は、東北大とインターメタリックスが主に担当した。焼結磁石の結晶粒子を微細化することで保磁力を高め、焼結する工程プロセスの基盤技術の確立にメドをつけた。

 Nd-Fe-B(ネオジム・鉄・ホウ素)高性能磁石はレアメタルのNdが主要構成元素であるため、その原料資源の確保が重要になってる。Ndの鉱物資源は中国や米国、オーストラリアなどで採掘され(採掘可能性を含む)、現在直面している中国が実施しているレアアース・レアメタルの鉱物資源の輸出規制問題は、採掘先が分散している分、ある程度の影響に留まっている。これに対して、ネオジム磁石はキュリー点が約310℃と比較的低温であるため、ハイブリット自動車や電気自動車の駆動力となるモーターに使うには使用温度面で不安がある。このため、ネオジム磁石にDyなどを添加し、キュリー点を高め、使用温度限界を高めている。現在、同モーター向けのネオジム磁石には組成21Nd-10Dy-68Fe-1B(各数字は質量%)の最大エネルギー積(磁石の磁力を示すもの)が30MGOeの磁石が採用され、Dyが10質量%も添加されている。

 「このDyの鉱物資源は中国に偏在し、ほぼ100%依存している情況」(NEDOの電子・材料・ナノテクノロジー部の中山亨部長)のために、その対応が緊急課題になっている。2010年は電気自動車の普及元年になったため、電気自動車向けの耐熱性に優れたネオジム磁石の確保が重要になっているからだ。

 東北大未来科学技術共同研究センター(NICHe)の杉本諭教授とインターメタリックスは、ネオジム磁石の焼結体を構成する結晶粒子を微細化することで、磁石の保持力を向上させ、かつ磁石を構成する結晶粒子の界面を制御することで、Dy無しでも保持力が高まる基本となる“指導原理”を明らかにし、その実現を追究した。まず、磁石合金向けの原料粉末を作製するジェットミルの噴射用ガスを従来の窒素ガスからヘリウムガスに切り替えた。ヘリウムガスの噴射速度は約3倍速いために、固い壁に原料粉末を衝突させて粉砕するジェットミルでは、従来の1/5程度の1.1μmと微細化した。

 実際には単純に微細化できた訳ではないが、工夫によって微細粒化することで、磁石の保持力向上を成功させた。ヘリウムガスを循環して用いるジェットミル装置の原型を製作し、今後の量産技術の基盤を築いた。

 この合金微粉末を原料として、PLP(Plessless Process)と呼ぶ装置を試作し、焼結磁石を作製した。現在、ネオジム磁石は、合金粉末を磁場中で圧力をかけて成形し、真空中で高温にして焼結し、焼結磁石として製造している。PLP装置は「巨大な磁場中プレス機が不要な装置」(インターメタリックス)である。ネオジム磁石の合金粉末は微細粒化すると表面積が増え、酸化されやすくなるため、酸素ガスがほとんどない超低酸素ガス雰囲気で、磁石形状に成形し、焼結するPLP装置を開発した。今回は、Dy添加無しで保持力20kOe、最大エネルギー積48MGOeのネオジム磁石を作製した。これを現行の磁石に当てはめると、Dy添加量を40%削減できることに相当することになる。

 PLP装置で焼結すると「微細な合金粉末は従来より低温で焼結でき、粒径が1.5倍程度しか成長しないため、従来の焼結磁石に比べると、微細な粒子で構成されている」とインターメタリックスは説明する。また、「ニアネット成形できるため、後工程での切断、研磨工程での作業が少なくなり、コストダウンにつながる見通し」という。

 今後は、Dy削減量をもっと向上させる研究開発を推進する構えである。最終的にはDy添加量ゼロを目指しているという。また、磁石大手のTDKがDy添加量を削減したネオジム磁石を量産するための生産技術を確立する検討を、8機関によるプロジェクトで進めていくもようだ。