外界とは隔離された空間で、光や温度、栄養分を制御しながら農作物を育てる「植物工場」。ここ数年、国による補助金などの支援が盛んだったこともあり、農業とは無縁だった異業種から植物工場の建設や野菜の生産・販売事業に参入する企業が相次いでいる。

〔植物工場の市場動向に関するTech-On!の記事〕
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 2010年夏は猛暑によって野菜価格が高騰したこともあり、露地栽培の代替という側面で注目を集めたが、本来は植物工場ならではのメリットを追求していくことが、植物工場の継続的な発展には欠かせない。具体的には、天候に左右されずに安定的に野菜などを生産できること、生産に広い土地を必要とせず、例えば都心のビルの中や工場の空きスペースなどにも設置できることなどだ。環境を最適に制御することで、作物に含まれる栄養価を高めることも可能である。

 こうした植物工場の特徴を生かした野菜の生産や、植物工場向けの照明機器やセンサ、制御機器といった生産設備の製造に乗り出す製造業が増えてきた。さらに、野菜の生産場所と消費場所の距離を短くすることで鮮度の確保や配送コストの削減などを狙った「店産店消」の取り組みや、植物工場設備の海外輸出も始まっている。

【写真】アルミスの植物工場。廃校となった木造小学校の教室を活用する。

製造業が農業へ挑戦

 『日経ものづくり』では2010年4月号から、農業や医療、福祉などの新しい分野にチャレンジする製造業の事例を紹介する「新産業で跳べ」というコラムを開始している。その中では植物工場関係として、2010年5月号でアルミス(佐賀県鳥栖市)を、2010年9月号で横手精工(秋田県横手市)を取り上げた。

 アルミスは、アルミニウム(Al)合金の押出し型材などの製造販売を行う「アルミ事業」と、Al合金を使った農業用の部材などを手掛ける「農業資材事業」などを主力事業とする売上高20億円強、従業員数40人ほどの中堅企業だ。同社は廃校になった木造小学校の教室を使い、自社で開発した低価格な植物工場システムの実証実験を進めている。

 アルミスの植物工場システムの最大の特徴は、導入コストが低いこと。設備の機能を必要最小限に抑えると同時に、栽培ユニットの構成部材の多くを自社生産し、その他の部材についても特注品ではなく市販品をできる限り採用した。レタスやバジルなど最大3840株を1カ月に2回収穫できる標準的なシステム(栽培室、育苗室、出荷室、照明、空調、液肥管理装置など)では、条件がそろえば初期投資を6~7年で償却できると、同社では試算している。

【写真】横手精工の植物工場。自社工場の2階を複数の区画に分けて野菜を栽培する。

 一方の横手精工は、プリント基板の実装や半導体関連設備などの組立事業を展開するほか、搬送装置などを自社開発する企業だ。同社が人工光を使った水耕栽培(植物工場)によって野菜を量産し、東京都などへ出荷するという事業を開始したのは2010年6月だ。

 同社が将来の事業の柱として期待するアグリビジネスだが、野菜を育てて売るという事業は本業とは一見、関連がない。野菜栽培の先には植物工場システムの提供という、ものづくり企業としての王道の事業展開を念頭に置きつつ、まずは野菜の栽培・販売を手掛けることにしたわけだ。付加価値の高い農作物を安く育てられることを、身をもって示すことで、装置販売につなげる考えだ。装置事業には、同社が持つ人的・技術的な資産を活用できる。

 これら2社のように、製造業が植物工場システムの提供を目的に野菜の生産を開始する具体的な事例が目立ってきた。その背景には、工場などの空きスペースを有効に使用したいという思惑もあり、植物工場で生産された野菜の市場自体が広まっていくにつれて、さらに事例が増えていくことになりそうだ。自社で野菜を栽培せずとも、照明や空調といった環境制御や作業の自動化といった分野で、自社技術の適用を探っていく事例も今後は出てくるだろう。

栽培用照明でLEDに期待

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