2010年のデジタル・カメラ業界における最大のニュースは,ソニーのミラーレス・カメラ市場参入だろう。同年2月に米国カリフォルニア州アナハイムで開催されたカメラ関連の展示会「PMA 2010」でソニーがモックアップを披露して大きな反響を呼んだ( Tech-On! 関連記事1)。

ミラーレス・カメラのモックアップを手に発表するソニー パーソナルイメージング&サウンド事業本部長の今村昌志氏

 ミラーレス・カメラはその名の通り,ミラー・ボックスを備えないレンズ交換式デジタル・カメラである。デジタル一眼レフ・カメラで用いる光学式ファインダー(optical view finder:OVF)の代わりに,電子式ファインダー(electric view finder:EVF)を用いることが多い。EVFの体積と重さは,OVFとミラー・ボックスに比べて半分未満で済むため,カメラの小型・薄型化が容易になる。この分野で先陣を切ったのはパナソニックで,2008年10月に製品を投入した。その後,オリンパスとリコーの国内勢が続いた。2010年1月には韓国Samsung Digital Imaging Co., Ltd.が「NX10」を「2010 International CES」で披露し,ミラーレス・カメラ市場に進出を果たした( Tech-On! 関連記事2 同3)。

 そして2010年6月,じわじわとミラーレス・カメラの知名度が高まってきた中でソニーが「NEX-5/3」を発売したのである( Tech-On! 関連記事4)。売れ行きは好調で,レンズ交換式カメラ市場で同社の存在感は急激に高まった。2010年10月29日に開いた同年7~9月期の決算説明会の席で,同社 CFOの加藤優氏は「これまで10%以下だったメーカー別シェアは,30%前後まで高まった」と胸を張った( Tech-On! 関連記事5)。

Samsung社の「NX100」。設定変更用の「iFn」ボタンを交換レンズに備え,シャッター速度や絞りなどを簡単に変更できるようにした

 ミラーレス・カメラ市場の盛り上がりは,2010年9月のドイツ・ケルンで開催されたカメラ関連で世界最大規模の展示会「photokina 2010」でも確認できた( Tech-On! 関連記事6 同7 同8)。Samsung社が「NX100」,パナソニックが「LUMIX DMC-GH2」と競うように新製品を披露した( Tech-On! 関連記事9)。さらに,各社はそろって交換レンズに関する今後の開発ロードマップを示した( Tech-On! 関連記事10 同11)。ミラーレス・カメラではこれまで,対応する交換レンズの品種が少なく購入を躊躇する消費者が多く,今回ロードマップを公表できたことは消費者にとって良い判断材料になるといえる。

 調査会社の富士キメラ総研によれば,ミラーレス・カメラの世界出荷台数は,2009年の21万台から2010年には195万台になるという(ニュース・リリース)。さらに,2014年には,2009年比で実に50倍の1052万台になると予測する。こうした市場の成長を見据え,部品メーカーも動いた。米Aptina Imaging Corp.は,APS-Cサイズで約1600万画素のCMOSイメージ・センサ「MT9H004」を発表した( Tech-On! 関連記事12)。「台湾や中国のメーカーも,ミラーレス・カメラの開発に強い関心を持っている」(Aptina社 Vice President & General Manager Consumer Camera Business UnitのSandor Barna氏)という。

 新規参入をうかがうメーカーが現れ始めている中,一眼レフ・カメラの2大巨頭であるキヤノンとニコンの動向にも注目が集まっている。水面下で開発は進めているものの,両社の一眼レフ・カメラ事業は好調で「収益が安定している今,あえてミラーレス・カメラを投入する必要はない」(業界関係者)との見方もある。

着々と進化する一眼レフ・カメラ