テキサス電力事業者Oncor社の本社前で行われたスマートメーター導入を反対するデモの様子
テキサス電力事業者Oncor社の本社前で行われたスマートメーター導入を反対するデモの様子
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米Tendril社のHEMS技術のUIの例(2009年ごろ)
米Tendril社のHEMS技術のUIの例(2009年ごろ)
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 米国のスマートグリッド市場の一年間を振り返ると,2010年は「消費者の年」だったと言えるのは間違いない。2010年10月18~21日に米国ワシントンDCで開催されていたスマートグリッド関連の大型イベント「GridWeek 2010」では,消費者とスマートグリッドに関する様々な話題が議論された。「イベントの歴史において消費者のテーマが中心だったのは始めてだった」と,何人かの関係者が言っていた。

 スマートグリッド市場の注目が消費者に向かった要因の一つは,米カリフォルニア州や米テキサス州において実際にスマートメーターを導入した消費者からの反発だった
Green Device Magazineの関連記事Tech-On!関連記事)。スマートメーターを導入したところ,急に電気料金が高くなった気付いて消費者からの苦情が広まった。苦情だけではない。2010年に入る直前の2009年10月には,カリフォルニア州の大手電力事業者Pacific Gas & Electric社(PG&E社)に対するスマートメーター導入に関する訴訟が起きた。2010年3月には,同様の訴訟がテキサス州の大手電力事業者Oncor社に対しても起きた(Tech-On!関連記事)。

 スマートメーターの正確さと不信とに限らず,消費者の電力利用のデーターがスマートメーターから配信されて,いずれはプライバシー侵害に繋がるのではという懸念も広がった。共和党を代表する「Tea Party」という政治運動において,このテーマが取り上げられた。

 これに反応して,カリフォルニア州やテキサス州の公益事業委員会がスマートメーターの正確度を評価することを第三者に依頼した。評価の結果,スマートメーターの正確度が認められた(Tech-On!関連記事)。こうした結果により,とりあえず「スマートメーターと消費者の摩擦」をテーマにした記事は米報道機関から減っていった。

 しかし,業界や政府のショックはまだ収まっていない。両者が希望している電力網の強化,再生可能エネルギー資源の導入,電動自動車(EV)の普及――などの項目を実現するためには,スマートグリッドの導入は不可欠である。スマートグリッドが支援することによりユーザー側の省エネルギーを実現しないと,新しい電子発電設備を設立することも必要となるかもしれない。消費者のスマートメーターの反発により,スマートグリッドの導入は,技術的な課題から消費者と関連する政策や行動心理学といった難しい問題に転換された。これと関連するように,電力事業者やスマートグリッド業界関連企業が消費者用途の製品設計に経験があるデザイン事務所などと協力している事例が見られるようになってきた。

HEMS企業の合併へ

 上記のスマートメーターと消費者の問題は,スマートグリッドと消費者のインターフェースとなるHEMS(home energy management system)技術の強化につながった。2010年に入ってから,HEMS技術を手掛けるベンチャー企業,特に消費者の電力利用を「見える」ユーザー・インターフェース(UI)に変える企業が目立つようになったきた。大手企業である米Google Inc. (Tech-On!関連記事)や米Microsoft Corp. (Tech-On!関連記事)もこの分野に参入してきた。

 このような状況は今後も続くであろう。2010年末は,この先に避けられないであろうHEMS市場への参入を目論む企業同士の合併が始まってきている。例えば2010年10月, HEMSを手掛けるベンチャー企業の米Tendril社は,やはりベンチャー企業である米GroundedPower社を買収した。これに加えて,230万米ドルの追加投資も受けた(発表資料)。2010年12月,米Motorola社の傘下である米Motorola Mobility, Inc.はベンチャー企業の米4Home社(Green Device magazineの関連記事)を買収した(発表資料)。これらの動きに加えて,2010年11月には大手エネルギー企業米General Electric Co.のGE Appliances & Lighting事業部が,HEMS関連の事業部を設立することを発表した(発表資料)。

 2011年,米国のHEMS市場関連の話題は尽きることがなさそうだ。