日産自動車は2010年12月20日にEV「リーフ」を発売する。同年12月3日の発表会では日産自動車の本社に多くのユーザーを招き,同社 最高執行責任者の志賀俊之氏がアピールした。
日産自動車は2010年12月20日にEV「リーフ」を発売する。同年12月3日の発表会では日産自動車の本社に多くのユーザーを招き,同社 最高執行責任者の志賀俊之氏がアピールした。
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 2010年は,電気自動車(EV)のエポック・メイキングと言える1年だった。世界中でEVの発表が相次いだ。この「ブーム」といえる状況に火を付けたのは,言わずと知れた日産自動車のEV「リーフ」である(関連記事)。それまで「EVはまだまだ先」とばかりにじっくりと開発が進んでいたところ,日産自動車は年産5万台という莫大な計画値をぶち上げた。これで世界の状況が一変した。EVに対して「もしかすると普及するのではないか」との空気が業界全体に流れ出した。

 日産自動車の生み出したうねりが,まず波及した先が米国である。それも,米国の自動車開発の総本山といえるデトロイトではなく,シリコンバレーだ。いまや数多ある新興EVメーカーの代表格,Tesla Motors Inc.がそこにある(関連記事)。Tesla社が注目を集めることになったきっかけは,米政府から4億6500万米ドルもの多額の融資を受けたことである(関連記事)。グリーン・ニューディール政策を打ち出し,清新さをアピールしたい米Obama政権の思惑にぴったりはまる企業がTesla社だった。その後,Tesla社は米General Motors Corp.の元工場である「NUMMI」を買い取ってEVを量産することを発表。「破綻したGM社を救い出す新興企業」との構図が脚光を浴び,時代の寵児に躍り出た。

 新たなスターに,多くの大手メーカーが惹き付けられる。ドイツDaimler AGを皮切りに(関連記事),2010年4月にはトヨタ自動車がTesla社に出資すると発表した(関連記事)。折しもトヨタ自動車にとって,「プリウス」のリコール問題で地に墜ちた米国での信用回復に躍起になっていた時期のことである(Tech-On!関連特集)。Tesla社への出資は,トヨタ自動車にとって,信頼回復に向けた意味も込められていたと言えよう(関連記事)。トヨタ自動車とTesla社はEVを共同開発するとし,同年11月に早くも「RAV4 EV」を公開した(関連記事)。出資に際してトヨタ自動車 代表取締役社長の豊田章男氏は「Tesla社からチャレンジ精神や意思決定のスピードを学びたい」と述べていたが,その言葉通りのスピード開発をしてみせた。

 自動車メーカーだけではなく,大手電池メーカーもTesla社に触手を伸ばす。パナソニックは2010年11月,Tesla社に3000万米ドルを出資したと発表した(関連記事)。なぜ電池メーカーまでもがTesla社に引き寄せられるのか。Tesla社の開発するEVの最大の特徴が,電池技術にあるからだ。具体的には,電池セルにパソコン用途の直径18mm×長さ65mmの「18650」を使う(関連記事)。18650は標準品として大量に出回っているため,車載専用の電池セルと比べて安価という特徴がある。だが,自動車に使う電池には,パソコンと比べて非常に高い安全性や信頼性が要求される。それをTesla社は,「仮に1本の電池セルが壊れ,熱暴走したとしても,他の電池セルに影響が及ばない物理的な構造(passiveな仕組み)を構築」(Tesla社 Battery Technology, DirectorのKurt Kelty氏)して対策した。これに目を付けたのがパナソニックというわけだ。同社も2009年,車載用途の18650の電池セルを披露していた(関連記事)。パナソニックにとってTesla社は,格好のお手本に映った。

 Tesla社ばかりが耳目を集めているように思える米国のEVメーカーだが,他にも興味深い新興企業は数多い。例えば米Fisker Automotive社である。Tesla社の後ろをぴたりと追いかけている。Fisker社もTesla社と同様に,米政府からの巨額の融資を受けたことで脚光を浴びた企業だ(関連記事)。さらに,これもTesla社と同様にGM社の元工場を購入(関連記事)。そして2010年10月には量産型のEVである「Karma」を披露した(関連記事)。Tesla社とともに2011年の動きを注目したい企業といえる。

トヨタとホンダはどう出るか,日本のEV開発