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写真1◎日産自動車取締役副社長の山下光彦氏
(写真:栗原克巳)

 「電気自動車とハイブリッド車は勝つか負けるかという関係ではない。(自動車の)電動化という大きな流れの中で、それぞれの特徴を生かせばいい。電動化技術では日本が世界をリードしている。2次電池やモータ、インバータなど主要な部品、ユニットすべてで、日本企業は世界トップレベル。さらに、これらを使いこなしてクルマに仕上げる技術でも大きくリードしている。海外勢は追いつけませんよ」。こう語るのは、2010年12月に満を持して電気自動車「リーフ」を市場投入した日産自動車の取締役副社長の山下光彦氏(写真1)。続けて、こう語ります。「電動化と、その究極の姿である電気自動車が次世代のクルマをけん引し、その分野で日本が強い技術を持っているというのに立ち止まっていてはダメです。みんなで推進し、いかにしてリードを圧倒的なものにするかを考えていかなきゃならない。そう思いませんか」。

 グローバル化の進展や新興国の台頭などものづくりの世界地図が大きく塗り変わる中、日本には新産業待望論があります。山下氏は電気自動車を日本に有利な新産業と捉え、日本が一つになって成長・発展させていくことの大切さを説いています。実は、これ、『日経ものづくり』2010年12月号の巻頭インタビュー「私が考えるものづくり」の中でお話しいただいたこと。このインタビューでは、ものづくりに一家言を持つ製造業のトップや識者の方などが登場し、ものづくりに対する思いの丈を語っていただいています。山下氏のお話のように、ここには皆様にお伝えしたいものづくりに関わるたくさんの言葉があります。すべては紹介し切れませんが、「私が考えるものづくり」の名言・金言を振り返ります。

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写真2◎宇宙航空研究開発機構JEM運用プロジェクトマネージャの今川吉郎氏
(写真:佐藤久)

 小惑星探査機「はやぶさ」で話題をさらった、宇宙航空研究開発機構(JAXA)。そこで、国際宇宙ステーション(ISS)における日本の実験棟「きぼう」の開発を手掛け、現在はそのシステム運用や実験運用の責任者を務める、JEM運用プロジェクトマネージャの今川吉郎氏は、若手技術者にエールを送ります(写真2)。「〔ISSのプロジェクトで米航空宇宙局(NASA)のノウハウに迫るために、NASAの技術者と〕担当者レベルで議論をするんです。要求が来たら、そのまま黙って受け入れるのではなく、『その数値はおかしい』とか『我々の実験ではこうなる』とか、ガチンコで意見をぶつける。すると相手だって、『日本の言っていることはおかしい。こうこうこういう理由で、この数字にしたんだ』と反論する。言いたくなくても言わざるを得ないんですよ。そうなったらしめたもの。彼らのノウハウがだんだんと明らかになってくる。(中略)だから、私は若手の技術者に口やかましく言うんです。議論をしなさい、と」。議論するには結局、自分が一生懸命勉強しなければなりません。自分自身が自ずと成長していくというわけです。

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写真3◎東北工業大学理事長の岩崎俊一氏
(写真:栗原克巳)

 若手を含め、すべての技術者にエールを送るのは、東北工業大学理事長の岩崎俊一氏(写真3)。HDDの垂直磁気記録方式の産みの親で、2010年の「日本国際賞」に輝きました。ご存じない方のために少しだけ説明しておきますと、岩崎氏は1970年代半ばに、同方式が記録密度の向上に有効であることに気付き、研究開発をスタートさせるも、水平磁気記録方式と競合して「死の谷」を経験。しかし信念を持って研究を続け、今日の垂直磁気記録方式隆盛の礎を築きました。その岩崎氏曰く、「科学技術は『人のために尽くす』が先になければいけない。単に『面白い』というだけではいけない。科学は知を広げて新しい文化を生み、技術はものづくりを通して社会を組織化し、文明を築く。文化のキーワードは、仮説を提案して実証する『創造』、標準化と普及を図る『展開』、そして実社会への融合を目指す『統合』の3つあります。(中略)この循環モデルにおいて、科学は技術になり技術は次の科学を生む。つまり、科学に基づく技術があって初めて社会の中で循環が行われる。(中略)ものづくりは文明の『もと』として残さなきゃダメなんです。そして、文明をつくるのはあなたたち、技術者なんです」。岩崎氏は、「科学は技術の母」だけでは足りない、「技術は科学の父」であると説きます。