エレクトロニクス業界にとって積年の大テーマである「インターネットとテレビの融合」。この実現に向けた動きが米欧を中心に広がっている(関連の動向をまとめた『日経エレクトロニクス』の12月13日号特集「テレビ 最後の挑戦」はこちら)。
 2010年10月に搭載機器が姿を現したソフトウエア基盤「Google TV」は,氷山の一角だ。大手メディア企業やテレビ・メーカーに加え,ベンチャー企業も入り乱れ,「リビングの王様」の主導権を奪い合う争いが本格化している。いったい今,テレビで何が起きているのか。その取り組みを追う。
 第2回のテーマは「進化するテレビ」。テレビ向けのアプリ配信サービスの可能性を探る。
(第1回「動揺するハリウッド,台頭する低価格VOD」はこちら

 「米国のネット・テレビ市場でSamsung社は6割のシェアを獲得した。インターネット接続機能を備えたテレビ関連機器を購入した顧客は,その半分がネット・サービスを使っている」

Samsung社のManuel氏

 韓国Samsung Electronics社でテレビ向けのコンテンツ関連を担当するOlivier Manuel氏は,2010年11月に米国ロサンゼルスで開催されたイベントのパネル討論会でこう胸を張った。

 現在,Samsung社が北米で販売する40型以上の液晶テレビは8割,Blu-ray Disc(BD)プレーヤーは全機種がインターネットの接続機能を備える。米Netflix社の動画配信サービスなどに魅力を感じ,多くのユーザーがネットを使ったサービスを利用しているという。

 他のテレビ・メーカー大手が発売する薄型テレビでは,実際にネットに接続するユーザーが北米で2割前後という意見が多い。テレビよりもネット接続率が高いBDプレーヤーでも4割ほどのようだ。Samsung社の語る数字をそのまま受け取れば,かなり高い接続率を実現していることになる。Manuel氏の発言からは「LEDテレビでトップ・シェアを奪ったSamsung社が,ネット・テレビでもナンバーワンを獲る」という決意と自信がみえる。

自分好みに選べる,テレビの機能

「Smart TV」を強く打ち出す

 Samsung社が欧米で強力にアピールしているのは「Smart TV」という呼称だ。携帯電話機が「スマートフォン」に進化したように,テレビをスマートにするのは同社だというイメージを打ち出す狙いである。

 同社が描くネット・テレビの普及シナリオは,日本メーカーとは異なる。現状では日本メーカーの多くが,いわゆる「ポータル・サービス」型でテレビ向けのWebサービスを提供している。動画配信やSNSなどの各サービスへの玄関口となるWebサービスを自社で運営し,新しい機能はテレビ・メーカーがそのポータル・サービスに追加する仕組みである。

 これに対して,Samsung社は「Sumsung TV Apps」と呼ぶアプリケーション・ソフトウエア(アプリ)の配信基盤を用意し,購入後にテレビの機能を追加する仕組みを急ピッチで整備している。米Apple社がスマートフォン「iPhone」で実現したビジネスモデルをテレビに取り入れようというわけだ。テレビの機能を拡張するアプリは,ユーザーが自分の好みで選べる。「一度テレビをネットに接続したユーザーは,動画配信だけではなく,地図サービスやゲーム・ソフトを使い始める」と,Manuel氏は語る。特に,世界最大のSNS「Facebook」をテレビで閲覧するアプリが人気を呼んでいるという。