ただ,Netflix社の広報担当者は,この見方を否定している。「Netflixの動画配信サービスはCATVなどに取って代わるものではない。むしろ補完し合う。天気予報やスポーツ中継,ニュースなどのテレビ番組を提供していないからだ」(Corporate Communications,Vice PresidentのSteve Swasey氏)。

 それでも,配信する映像コンテンツをさらに豊富にする方向で,同社が積極的に投資していることは間違いない事実だ。2010年8月には,米Viacom社などの大手メディア企業がCATVや衛星放送向けに提供するテレビ・チャンネル「Epix」の映像コンテンツをネット配信する契約を結んだ。米Wall Street Journal紙によると,この契約でNetflix社は,5年契約で約10億米ドルを支払ったという。

 テレビ関連メーカーが導入するネット動画配信サービスはほかにもある。2010年2月に世界最大の小売企業である米Wal-Mart Stores社が買収したことで話題を呼んだ米VUDU社のサービスは代表例だ。LG Electronics社やSamsung Electronics社などの韓国勢や,シャープ,ソニー,パナソニックなどがテレビやBDプレーヤー,ゲーム機などで採用しているサービスである。

ハリウッドの見方が変わる

VUDU社はWal-Mart社の傘下に入った

 こうしたサービスが続々と登場し,利用者が増加したことで大手映画会社によるネット動画配信の見方は大きく変わろうとしている。DVDなどパッケージ媒体のレンタル開始と同時にネット動画配信を解禁する「Day & Date」と呼ぶコンテンツの提供手法の導入が増えている。2010年中にも,ハリウッドの大手映画会社6社のうち5社がこの手法を導入する見込みだ。

 VUDU社は2010年11月に,親会社のWalmart社と連携した新たな配信サービスも始めた。米The Walt Disney社の人気アニメ映画「Toy Story 3」のDVDやBDをWalmart社の店舗で購入した顧客に,自由に配信サービスでも視聴できる権利を与える。つまり,パッケージ媒体の購入者は,追加料金なしでVUDU社の配信サービスでもそのコンテンツを視聴できるようにしたのである。Walmart社の販売力で,ネット配信でのコンテンツ調達を有利に進める狙いのようだ。

 もはや,パッケージ媒体のレンタルと,ネット動画配信は同等の扱いになっている。こうした取り組みはこれから1~2年で増加するだろう。

 米国では,CATVや衛星放送など従来型の映像サービスの契約を打ち切り,Netflix社やVUDU社のようなネット動画に乗り換える動きを「Cord cutting」と呼ぶ。これに危機感を抱いた従来型サービス側は,ネット動画に歩み寄る動きを加速している。

 CATV大手は,CATVサービスで流す放送コンテンツをインターネットで配信するサービスの準備を進行中である。米CATV大手のComcast社は既に「Fancast」と呼ぶパソコン向けの動画配信サービスを開始している。さらに同社は,2010年11月にApple社のスマートフォン「iPhone」などにもサービスを対応させた。衛星放送大手の米DISH Network社のように,Google TVを搭載した機器との連携機能をセットトップ・ボックス(STB)に取り入れる企業も出てきた。

 まだ,Cord cuttingのうねりは大きくない。だが,「Netflixなどのサービスさえあれば,CATVなどはいらない」と考える視聴者が少なからず現れる――。そうした将来像は,あながち的外れではなさそうである。ネット動画のさらなる充実によって,“コードを切る”視聴者の決断が本格化する時期は迫っている。

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