VLSIとシステムの設計技術に関する国際会議「ASP-DAC 2011(16th Asia and South Pacific Design Automation Conference)」が2011年1月25日から28日にパシフィコ横浜で開催される。アジアや南太平洋地区のみならず,全世界から研究者が集まり,電子設計自動化の最新の動向や技術に関する議論が行われる。

 今回のASP-DACでは,26の国や地域から合計で300件の論文投稿があった。厳密かつ徹底的な査読を経て,104件が採択になった。この104件の論文は36の技術セッションに振り分けられて,1月26日~28日に発表される(プログラムのページ)。注目論文は次の10件である。以下,論文番号順に各論文のポイントを紹介する。

第4の受動素子「メムリスタ」のバラつきを研究

 1件目は,米Carnegie Mellon Universityの「アナログ回路に対する統計的モデル・チェッキングの適用性」に関する論文である(論文番号1A-1, Y-C. Wang他)。モデル・チェッキング技術を用いることで,統計的な振舞いをするアナログ回路に対して時間領域および周波数領域の双方においてその動作を検証可能にした。

 2件目は,米Polytechnic Institute of New York Universityの「メムリスタに関する幾何学的なばらつき」に関する論文である(論文番号1B-1,M. Hu他)。L,C,Rに続く4番目の受動素子として「メムリスタ」の実デバイスが2008年に開発された。それ以来,その特性が研究され続けている。この論文はメムリスタを製造した際の幾何的なバラつきに関して論じたものである。最新の回路デバイスに関する興味深い研究である。

 3件目は,米Massachusetts Institute of Technologyと香港University of Hong Kongの「モデル・オーダ・リダクション手法におけるモーメント・マッチング技術」に関する論文である(論文番号1C-1,Z. Zhang他)。LSI配線のシミュレーションでは非線形/線形微分方程式を低次元化するモデル・オーダ・リダクション技術が不可欠となる。両大学は,モーメント・マッチング技術を用いて,受動性を保持したまま低次元化を実現した。モデル・オーダ・リダクションに新たな展開を期待できる。

 4件目は,独Technical University of Munichの「サイバー・フィジカル・システムの構築技術」に関する論文である(論文番号3A-1,D. Goswami他)。サイバー・フィジカル・システムとは,物理システム・プロセスと計算ネットワークを融合したシステムのことで,その対象は通常の組み込みシステムからグリッド・コンピューティングにまで及ぶ。この論文はサイバー・フィジカル・システムを対象に,制御対象の安定性を保証した通信スケジューラとコントローラの設計指針を示している。サイバー・フィジカル・システムの具体的な構成法に指針を与える大きな研究成果である。