Adobe Systems社 Director of Product Management Design&Digital PublishingのZeke Koch氏
Adobe Systems社 Director of Product Management Design&Digital PublishingのZeke Koch氏
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Adobe Systems社Sr.Business Development Manager Digital PublishingのNick Bogaty氏
Adobe Systems社Sr.Business Development Manager Digital PublishingのNick Bogaty氏
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 米Adobe Systems社が電子書籍市場に向けて大きく動き出した。同社は電子出版の制作ソリューション「Digital Publishing Suite」の一般提供を,米国で2011年第2四半期に開始する(日本での提供時期は未定)。Digital Publishing Suiteは,2010年10月に米国で開催された「Adobe MAX 2010」で発表された。電子雑誌などの制作から配信,販売(課金),分析(効果測定)までをカバーする,総合的なソリューションである。電子書籍市場の“影のキー・プレーヤー”と言える同社に,米国の電子雑誌ビジネスの現状や戦略などについて聞いた。

 取材対応者は,Adobe Systems社 Director of Product Management Design&Digital PublishingのZeke Koch氏と,Sr.Business Development Manager Digital PublishingのNick Bogaty氏。このインタビューを2回に分けて紹介する。

--iPadが発売された直後,米Conde Nast社が発行する「Wired」などの電子雑誌が大きな注目を集めた。こうした電子雑誌の米国での評価はどうなのか。中には,「一過性のブーム」と冷めた見方もある。

Koch氏 iPad向けに提供される電子版のWiredは,Digital Publishing Suite(DPS)を先行的に利用して作成されている。
 
 電子版Wiredの第一号をダウンロードした人は,最初の一週間で9万人に達した。これは米国のニューススタンドで販売された紙版のWiredと同じ部数だ。一般に米国では日本と違って,雑誌はほとんどが定期購読されている。1冊当たりの価格は,ニューススタンドでは5米ドルだが,定期購読では0.85~1米ドルなどと,約5倍の開きがある。Wiredの電子版もニューススタンドと同価格で,定期購読よりかなり高いのだが,結構売れたのだ。

 読者数という点では,電子版の投入によって新規に10~20%を追加した。広告主は,第1号では従来の1.5倍に増えた。それが第2号では2倍になった。広告主は,iPadを買うような人は相応の可処分所得を持っており,品質が高ければお金をきちんと支払っても構わないと考える人達だと見ている。

 つまり,電子版のWiredでは好循環が起きている。早い時期から開発資金を確保でき,早くも利益が出せている。現在はApple社側の仕組みの都合上,定期購読はできず,それが電子雑誌の普及には阻害要因になっている。しかし,この問題が解決されれば電子雑誌をもっと安く買えるようになるので,読者の数が爆発に増えるだろう。私は今後,消費者は電子雑誌にどんどん移行すると見ている。

--日本では電子雑誌に向けた広告ビジネスが,まだあまり動いていない。出版社の経営者はまだビジネスとして成立するのか,確信が持てないでいるようだ。

Koch氏 新聞や雑誌の発行部数を公差する米国のABC機構は,電子雑誌の内容が紙版と一緒だったら電子版の定期購読者を紙版のそれに加えることができる,としている。日本でも同様の取り決めができれば,電子雑誌のビジネスがもっと早く立ち上がるだろう。

 例えば,紙版の広告が写真ベースであっても,電子版は動画を挿入するなどインタラクティブにできる。そうすれば,電子版の広告には追加料金を課すことだって可能になる。

--出版社にとっては,電子雑誌ビジネスへの投資負担は大きくないのか。

Bogaty氏 投資には二つの側面がある。デジタル・コンテンツを作るためには,人を雇用しなくてはいけない。米国において電子雑誌で成功している出版社では,紙版を編集しているコアの人材が電子版も手がけている。ただ,作成すべきバージョンが増えるので,従来よりも作業が20~30%ぐらい増える。もう一つは,電子雑誌を作るために必要なツールやサーバー,サービスへの投資だ。

 Adobe社は,DPSの一般提供を2011年に開始するが,我々のビジネスモデルは雑誌の成功に合わせて拡大していく。だから初期投資は少なく済む。

--DPSでは,出版社の初期投資はどの程度必要なのか。
Koch氏 最小の初期投資は月額699米ドル。それにDPSのサービス費が追加される。それは,雑誌が配信されるたびに発生する小額の料金だ。最初の年の投資は8000米ドル強になるだろう。Adobe社が望んでいるのは,できるだけ多くの雑誌が,できるだけ多くの端末に配信されること。そうすれば消費者に選択肢を提供することができる。