ホンダ・グループの研究開発を担う本田技術研究所(以下ではグループ企業を含めて,ホンダ)は,二輪車の電装系(ハーネス)の設計環境移行に関して講演した。MCAD(mechanical CAD)のみの環境から,EDA(electronic design automation)主体の環境へと移行した。新しい設計環境は,2009年4月から運用が始まっており,効率化などの効果を挙げている。

図1●ホンダの2輪車を紹介する船寄祐輔氏 Tech\-On!が撮影。スクリーンはホンダのデータ。
図1●ホンダの2輪車を紹介する船寄祐輔氏
Tech-On!が撮影。スクリーンはホンダのデータ。
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 この講演は,移行先のEDAツールの開発元である図研が開催のプライベート・セミナー「Zuken Innovation 2010」(10月21日と22日に横浜市で開催)で行われた。登壇したのは,ホンダの船寄祐輔氏(二輪R&Dセンター 第2商品開発室 第3ブロック 研究員)である。同氏はホンダの2輪車事業について簡単に紹介した後(図1)で,2輪車の電装設計の特徴や,その手法の変遷について説明した

 同氏は,まず,4輪車と2輪車の電装設計の違いについて語った。4輪車に比べて回路規模が小さいことや,機能/仕向地派生が少ないこと,完成車の回路設計と部品の設計を同じ設計者が行うこと,完成車の回路図がほぼ配線図になっていることなどである。

 こうした特徴のためだろう,2輪車の電装設計のCAD化は,筆者が話を聞く機会が多い民生用電子機器やLSIの設計に比べてかなりゆっくりと進んでいる。実際,大学時代にはEDAを使っていたという船寄氏は,ホンダに入社してMCAD(mechanical CAD)を使って回路設計していることにちょっとした違和感を覚えたという。例えば,MCADを使っていると,図を描くことに時間を取られてしまい,電装設計を練るという本来の作業の時間が圧迫されるからだ。「力の入れどころが違うのではないか・・・」(同氏)と。

 ただし,ホンダに限らず,2輪車や4輪車のメーカーはMCADの大手ユーザーで,MCADのノウハウも豊富である。これを利用しない手はない。しかもハーネスの詳細設計はワイヤ・ハーネス・サプライヤが行う場合も多く,かつては2輪車や4輪車のメーカーでは簡単な図面を書くだけで,それ以降はワイヤ・ハーネス・サプライヤに任せるケースが少なくなかった。

1990年代中頃からCATIA V4を使い始める

図2●電装設計環境の推移 今回の環境構築の前までを示している。ホンダのデータ。
図2●電装設計環境の推移
今回の環境構築の前までを示している。ホンダのデータ。
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 船寄氏によれば,ホンダの2輪車の電装設計のCAD化が本格化したのは,仏Dassault Systemes社のMCAD「CATIA V4」を導入した1990年代中頃からだという(図2)。回路図とハーネス図(ワイヤやコネクタなど,接続部品の情報が載った図面)の両方をCATIA V4で描く。その後,「械械系図面のハーネス図だけでは困る」と窮状を訴えたことによって,ホンダ社内のMCADサポート・チームがCATIA V4を拡張して,ハーネス図が回路の属性情報を持てるようにしてくれた。

 しばらく,この拡張CATIA V4を使う体制が続いたが,ホンダ全体でMCADをCATIA V5にアップ・グレードすることが決まり,事情が変わった。回路の属性情報を扱うための拡張機能は,CATIA V5には簡単に移植できないからだ。また,この頃になると,2輪車の電装系の回路規模が大きくなり,これまで目視で行ってきた回路図とハーネス図間の一貫性チェックがしんどくなってきた。さらに,電気の設計データを蓄積して再利用したい,電気系の各種解析ツールも利用したいなどの要望も出てきて,電気系のEDAを導入する機運が高まっていた。2008年の初夏ごろのことである。