図4 米国での2009年モデル。画面サイズなどが異なる3機種を用意した。価格は当時のもの
図4 米国での2009年モデル。画面サイズなどが異なる3機種を用意した。価格は当時のもの
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図5 3Gネットワークを通じて,毎朝6時に定期的に自動配信する仕組み
図5 3Gネットワークを通じて,毎朝6時に定期的に自動配信する仕組み
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*本記事は,日経エレクトロニクスが2010年6月に発行した別冊「電子書籍のすべて」に掲載した内容を一部抜粋したものです。記事は,執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります。

米国の電子書籍市場をAmazon.com社とともに牽引してきたソニー。2010年12月10日に,いよいよ国内市場にも再参入する(関連記事)。同社において電子書籍ビジネスを統括する米Sony Electronics社の野口氏が,米国での事業を振り返る。



――前回から続く――

ペーパーバックを意識

 我々は2009年に,電子書籍端末を3機種発売した。世界の電子書籍市場に積極的に打って出るため,これらの機種から「Reader」というブランド名を掲げ,パッケージの統一も図った。我々は米国では,自らコンテンツ配信サービスも手掛けている。それは,「Reader Store」と名付けた。

 発売した3機種とは,「Reader Pocket Edition(リーダー・ポケット・エディション)」,「Reader Touch Edition(リーダー・タッチ・エディション)」,「Reader Daily Edition(リーダー・デイリー・エディション)」である(図4)。

 Reader Pocket Editionは,5型とやや小さい電子ペーパーを搭載する機種で,価格は199米ドル(発売時)。Reader Touch Editionは,6型の電子ペーパーとタッチ・パネルを搭載した機種で,価格は299米ドル(発売時)である。

 この2機種は2009年8月に同時に発売した。我々は,199米ドルの機種の方が売れると考え,そちらを多めに仕込んでいた。しかし,実際に売れ行きが好調だったのは,299米ドルの機種だった。一時的に,全く商品がない状態にまでなった。やはり現在は,アーリーアダプターのユーザーが多いため,良い商品の方が人気が高いということだろう。

 2009年12月には,Reader Daily Editionを発売した。7型の電子ペーパーで,3G無線通信機能を搭載した機種である。なぜ7型にしたのか。それは,米国のペーパーバックを読みやすくするためだ。ペーパーバックは,1ページに約35行ある。しかし,一般的な6型の場合は1度に24行しか読めない。

 そこで,ペーパーバックを読み慣れたユーザーが使いやすい製品にするため,7型の電子ペーパーを米E Ink Corp.と共同で開発した。米国のユーザーに聞くと,7型の電子ペーパーだとペーパーバックを読むスピードが格段に速くなるという。

 もちろん,コスト面では主流の6型電子ペーパーに比べて高くなる。それでも,米国の文化に根差していくことを打ち出したかった。6型の電子ペーパーは,我々が日本で「LIBRIe」を開発した時にE Ink社と一緒に開発したものだ。今では6型の電子ペーパーが世界中で使われているが,もともとは日本の文庫本のサイズを意識した電子ペーパーである。

3Gと相性の良い電子書籍

 Reader Daily Editionのもう一つの特徴は,3G無線通信機能を搭載したことである。

 電子書籍端末における3G無線通信機能については,Kindleが先行して非常に優れたビジネスモデルを提示した。ユーザーは通信料を一切支払う必要がないというモデルである。Kindleの登場前,3G無線通信機能を搭載した端末が出てくることは予想していたが,このビジネスモデルについては正直,衝撃を受けた。

 どうして無料にできるのか─。Kindleが提示したビジネスモデルを考えていくと,再認識したことが二つある。一つは,書籍データは音楽データに比べると容量が非常に小さく,かつ単価が高いということである。

 実際,書籍データの容量については1Mバイトに満たないものが多い。音楽データの場合,3Mバイトや5Mバイト,ものによっては10Mバイトもある。値段については,音楽データの場合は1米ドル程度であるのに対し,書籍の場合は9.99米ドルが売れ筋だ。

 容量が10分の1で,価格が10倍ということは,ビット当たりの通信料で100倍の差があることになる。実は,電子書籍コンテンツは3G無線通信との相性が良いのだ。

 もう一つ再認識したのは,端末の売り切りではなく,コンテンツを含めたビジネスモデルが不可欠ということだ。通信料無料というビジネスモデルを維持するためには,端末を売るだけではまかなえない。継続してコンテンツを買い続けてもらい,その利益で補っていく必要がある。つまり,端末とコンテンツを切り離して考えるわけにはいかない。

 Reader Daily Editionの3G無線通信機能も,Kindleと同様にユーザーが通信料を支払う必要がない。我々は,この機種において新聞の自動配信を実現した(図5)。毎朝起きたときに端末を手に取ると,その日の新聞が入っている仕組みだ。非常に利便性が高いため,Reader Daily Editionを購入したユーザーの多くが,この仕組みを利用している。

 米国は土地が広大な上に,地域性もある。例えば,カリフォルニアでNew York Post紙を読みたいと思っても,なかなか手にできないのが実情だ。現在,自動配信している新聞の種類はまだそれほど多くないが,近い将来,大幅に増えることになるだろう。