スーパーコンピュータの省エネルギー性能を競うランキング「Green500」の最新リストが日本時間の2010年11月19日未明に発表された。1位を獲得したのは,米IBM Corp.が2011年の稼働を目指している演算容量20PFLOPSのシステム「Sequoia」のサブシステム「Blue Gene/Q」である。現時点で公表されているランキングでは,2位に東京工業大学の「TSUBAME2.0」,4位に理化学研究所と富士通が神戸市に構築中の「京」のサブシステムが入った。

 ただし,Green500で用いられているシステムのデータには一部に明らかな誤りがある。正しいデータに基づくと,Green500の2位には東京大学と国立天文台が共同開発して国立天文台で用いられているGRAPE-DRの81ノード版が入る計算となる。GRAPE-DRの100ノード版も5位相当になる。

予算規模より技術で比較

 省エネルギー性能は最近,重要性が高まっている。システムの規模や,システムを実際に運用する際の可用性を大きく左右するためだ。例えば,「TOP500」の上位に並ぶ,演算容量が数PFLOPSのシステムは,消費電力も数MWの水準と大きい。仮に消費電力1.2MW規模のスーパーコンピュータをフルに使い続けると,電気料金が10円/kWhと格安だったとしても,年間約1億円の電気代がかかる。スーパーコンピュータにとって電気代の大きさは無視できない問題になっており,払える電気代に上限があるために,導入システムの規模が抑制されたり,利用に制限がかかるといったこともすでに起こっている。

 このため,最近のスーパーコンピュータの開発では,省エネルギー性能の向上が大きな技術開発の目標になっている。Green500のリストは,演算性能を競うTOP500のリストを,省エネルギー性能,具体的には単位消費電力当たりの演算性能で見直したものである。システムの規模,つまりは予算の規模が物をいうTOP500と異なり,Green500は技術の高さがよりストレートに反映されやすいランキングだといえる。

 今回,1位のIBM社のBlue Gene/Qは,単位消費電力当たりの演算性能が,1684MFLOPS/Wだった。この値は,前回のGreen500の1位の値の2倍超,前の世代のBlue Gene/Pの約7倍と目覚しく向上した。Blue Gene/Qを基に構築する演算容量20PFLOPSのSequoiaは,そのシステム規模の大きさに対して,最大消費電力の目標値が6MW以下と小さい。

 一方,今回のTOP500で1位だった中国の「天河一号A」は,現時点で公開されているGreen500では11位となる。

Top500の修正を反映せず

 今回のGreen500の2位以下の順位は,今後大きく修正される可能性がある。理由は,TOP500プロジェクトは,2010年11月14日に一度発表したTOP500の順位や性能のデータを数日後に修正した。ところが,現在のGreen500にはその修正が未だ反映されていないためである。

 TOP500が修正したデータは少なくとも3カ所ある。(1)90位に当初の発表ではなかった米Clemson Universityの実効性能85.04TFLOPSのシステムを加えた,(2)修正前の順位で278位だったGRAPE-DRの100ノード版の消費電力を450.4kWから45.05kWに修正した,(3)同317位だったGRAPE-DRの81ノード版の消費電力を362.6kWから29.37kWに修正した,の3点である。GRAPE-DRを開発した東京大学がTOP500の発表後に現地で集計側の誤りを指摘したため,こうした修正が反映された。

 (1)の修正によって当然,TOP500の90位以下のシステムはすべて順位が一つ繰り下がった。(2)と(3)の修正をGreen500に反映させると,GRAPE-DRの81ノード版は,省エネルギー性能が1176MFLOPS/Wとなり,Green500ではIBM社に次ぐ2位に,GRAPE-DRの100ノード版は,同862MFLOPS/Wとなり理化学研究所の京を上回って5位となる。

 実際にはGreen500に別の集計ミスもあった模様だ。国立天文台によれば,GRAPE-DRの81ノード版の省エネルギー性能は,実際には1473MFLOPS/Wだったという。TOP500の申請締め切りは11月1日,Green500の申請締め切りは11月11日だった。国立天文台はこの10日の間に81ノード版のシステムを再調整して,TOP500に申請した実効性能34.55TFLOPS,消費電力29.3kWという値を,Green500では実効性能37.44TFLOPS,消費電力25.41kWという値に向上させた。向上後のデータを反映させても順位は2位のままだが,IBM社のBlue Gene/Qの値に肉薄した数字となる。ところが,このデータはGreen500側に受理されたにも関わらず,リストには反映されず,TOP500のしかも誤ったデータを基に計算した省エネルギー性能の値が用いられた。

 東京大学と国立天文台は,Green500にデータとランキングの修正を申し入れているが11月24日夜時点でまだ反映されていない。Green500を取りまとめている米Virginia Polytechnic Institute and State University(VirginiaTech)の研究者Wu-chun Feng氏への本誌からの問い合わせにも,未だ返答がない状態である。