稼働中のスーパーコンピュータの500位までのシステムを半年ごとに集計しているTOP500プロジェクトは,2010年11月の最新結果を発表した。今回の1位は,中国・国防科学技術大学(NUDT)が開発して,天津市の「国家超級計算天津中心」に納入した「天河一号A(Tianhe-1A)」となった。LINPACKベンチマークを利用した倍精度の浮動小数点演算で2.566ペタ・フロップス(PFLOPS)の実効性能を記録した。

 天河一号Aは米Intel Corp.製で2.93GHz動作のマイクロプロセサ「Xeon 5670」1万4336個と,米NVIDIA Corp.のグラフィックス処理LSI(GPU)「Tesla M2050」7168個,およびNUDTが独自開発した1GHz動作のマイクロプロセサ「銀河飛騰(FT)-1000」2048個から成る。

 2009年に構築した従来の天河一号から増強した点は,(1)米Advanced Micro Devices,Inc.(AMD社)のGPUをNVIDIA社の製品に入れ替えた,(2)インターコネクト用のチップを,NUDTが独自に開発したものに入れ替えた,(3)マイクロプロセサの主力は従来通りIntel社製の「Xeon」だが,一部をNUDT開発のFT-1000にした,などの点である。FT-1000は「ストリーム・プロセサ」と呼ばれる,GPGPU(general purpose GPU)に似たアーキテクチャの汎用マイクロプロセサである。

 天河一号Aは,システムの演算容量も4.701PFLOPSで1位である。ただし,実行効率は約55%と,90%超のシステムもある中では高いとはいえない(関連記事)。消費電力は4.04MW。1W当たりにすると約635MFLOPS/Wで,単位消費電力当たりの実行性能を競う「Green 500」の2010年6月発表のリストで4位相当になる。

 天河一号Aの実効性能は2010年10月時点で発表され,2010年6月発表のTOP500で1位だった米Oak Ridge National Laboratoryにある米Cray Inc.製「Jaguar」を抜いたことが米国内外で話題になった(中国国内のトップ100の最新リスト)。例えば,「2012年春には米IBM Corp.製で演算容量が10PFLOPSの「Blue Waters」や,やはりIBM社製Blue Geneの後継で同20PFLOPSの「Sequoia」など5システムが抜き返すから大丈夫」といった米メディアの一部報道もある。

 ただし,中国でもさらに新しいスーパーコンピュータの導入計画が動いている。例えば深セン市に導入中で2011年春に本格稼働見込みの「曙光6000」や,FT-1000の後継となる「銀河FT-1500」を全面的に用いる予定の「天河二号」である。これから,米国と中国のスーパーコンピュータ開発競争が本格化しそうだ。

 富士通と理化学研究所が開発し,神戸市に導入中の「京」は本格稼働が2012年秋になる見込み(関連記事)。演算容量ではSequoiaに敵わないが,実効性能次第では上位に食い込む可能性がある。

東工大の「TSUBAME2.0」は4位

 今回のリストの2位以下には,上述のJaguar,そして中国の「曙光6000」の一部である「曙光星雲」が続く。そして,東京工業大学が2010年10月に稼働させた「TSUBAME2.0」が実効性能1.192PFLOPSで,4位に飛び込んだ(関連記事)。日本のシステムが10位以内に入ったのは,2006年11月以来4年振りである。4年前にトップ10入りしていたのも東京工業大学のTSUBAME1だった。

 日本勢は,省エネ性能では世界をリードする格好になっている。例えば,TSUBAME2.0は近く発表される今回のGreen 500で世界1位をうかがう見通しである。前回の「Little Green 500」では東京大学と国立天文台が共同開発した「GRAPE-DR」が1位だった(関連記事)。京もGreen 500では2012年でも世界1位の可能性がある。