東京工芸大学 芸術学部 ゲーム学科 講師の正木 勉氏(写真:陶山 勉)
東京工芸大学 芸術学部 ゲーム学科 講師の正木 勉氏(写真:陶山 勉)
[画像のクリックで拡大表示]
東京工芸大学 特別講師の宮澤 篤氏(写真:陶山 勉)
東京工芸大学 特別講師の宮澤 篤氏(写真:陶山 勉)
[画像のクリックで拡大表示]
3Dコンテンツの制作風景。アクティブ・シャッター型の3D表示に対応するプロジェクターで映像を表示させている。写真左端が宮澤氏,右端が正木氏(写真:陶山 勉)
3Dコンテンツの制作風景。アクティブ・シャッター型の3D表示に対応するプロジェクターで映像を表示させている。写真左端が宮澤氏,右端が正木氏(写真:陶山 勉)
[画像のクリックで拡大表示]

 2010年は,「3D元年」といわれる。国内ではパナソニックやソニー,シャープ,東芝など,海外では韓国Samsung Electronics Co., Ltd.やLG Electronics Inc.といった大手テレビ・メーカーがこぞって3次元(3D)対応のテレビの販売を開始した。今後,3D対応機器が普及拡大するために必要なことはいくつか挙がるが,最も重要なものは3Dコンテンツといわれる。強力なコンテンツになるであろう3Dゲームについて,研究開発環境を拡充しているのが,東京工芸大学 芸術学部 ゲーム学科 教授の岩谷 徹氏が率いる研究グループである。岩谷氏は,ナムコ(当時)時代に「パックマン」を開発したことで知られる。同氏の研究グループで3Dコンテンツの研究開発を進める講師の正木 勉氏と特別講師の宮澤 篤氏に3Dコンテンツ研究の狙いを聞いた。(聞き手は大久保 聡=日経エレクトロニクス)

東京工芸大 教授の岩谷氏へのインタビュー記事は,『日経エレクトロニクス』の2010年10月18日号に掲載。詳しくはこちら

――今年,アクティブ・シャッター型の3D表示に対応するプロジェクターを導入し,3Dコンテンツの制作の研究を進めるようになったキッカケを教えてください。

正木氏 実は,もともとの意図は単純でした。毎年,4年生は卒業する年の年初に開催される展示会に,卒業制作を出展します。ゲーム学科はゲームコースを前身として今年の4月に発足したばかりなので,ゲーム学科にとって初めての卒業展示会への出展となります。ですから,何としても「インパクトのあるものを」と考えました。これが3D表示機器の導入や3Dコンテンツ制作のキッカケでした。

 当初,立体的に見える3Dはあまり考えていませんでした。しかし,制作したゲームをプロジェクターを使って大きく表示して楽しめるようにすればよいと思う反面,十分なインパクトを示すにはちょっと弱いかなとも感じていました。そう思っていた矢先,3Dブームが起きたわけです。特に3D映画は大きな話題をさらっていました。そうなると,いずれ立体的に見える3Dゲームにも大きな注目が集まると考え,機材を導入することにしました。

 3Dコンテンツ制作・映像表示に向けた機材についてはあまり詳しくなかったのですが,2010年からちょうど各種機材がそろうようになってきました。重点教育科目として,3Dコンテンツの制作への取り組みを大学側に申請したところ認められ,3Dプロジェクターなど関連機材の導入を始めました。今年の夏にひと通りの機材が整ったというところです。昨年制作したゲーム・コンテンツを立体的に見える3Dに移植し,急遽,今年9月開催の「東京ゲームショー」に出展しました。

――ゲーム・コンテンツの移植は容易にできるのでしょうか。

正木氏 DirectX系のプログラムを書けば,グラフィック・ボードのカードのところで自動的に立体3Dにしてくれる仕組みを提供しているところがあります。我々は,それを利用しました。このような仕組みが2009年から2010年にかけて出だしたところだったので,グッド・タイミングでしたね。

 ただ,そんなに気にしなくても立体3Dになるのですが,ちょっと問題がありました。奥行き方向に立体感は出るのですが,手前方向に飛び出してこないのです。おそらく,最近の立体3D映画では奥行き方向の表現を重視していることが背景にあるのでしょう。ゲームでは迫力を出す上でも手前方向に映像をある程度飛び出させたいので,奥行き方向の表現力では足りません。今,手前方向への飛び出させ方について試行錯誤しているところです。まずはこれまで制作したゲーム・コンテンツを立体3Dに移植することから始め,協力する宮澤先生が得意とするCAVEを使ったバーチャル空間の表現にも取り組みたいと思っています。

――立体3Dコンテンツの制作にはゲーム学科の学生の皆さんが取り組まれます。未来のクリエーターの卵でもある学生の皆さんは,3Dコンテンツに対してどのような印象を抱いているのでしょうか。

正木氏 正直なところ,立体3Dにかかわる機会はそんなに多くないので,まだ大きなインパクトはないですね。ですが,奥行き感だけではなく,手前方向に映像を飛び出させるようなことまでできるようになると,かなりインパクトを学生にも与えられると思います。大学という環境を活用して,いろいろな映像表現にチャレンジしていきたいですね。

――ゲーム・コンテンツとして磨いた立体3Dの表現技術は,他分野にも展開可能なのでしょうか。例えば,宮澤さんは,XYZ軸を使う数学の授業などに立体3Dによる映像表現を活用して,理解力が高めるといった効果を期待されておられます。

宮澤氏 確かに,教育分野などに活用可能だと考えています。今年の夏,情報メディア学会の年次大会で,多くの関係者と3Dの今後を話し合う機会がありました。従来の想定を超えるような将来像がなかなか見えてこない状況の中,教育分野への展開を切り出してみると,身を乗り出して聞き入る方々が数多くいらっしゃいました。

 例えば,数学の授業において,数式を使って立体を表現することを習うとき,数式上は理解できても,教科書などの平面的な表現では直感的に理解するのは難しいですよね。そのようなときに,立体3Dを利用するのです。3Dを活用できるのは,エンターテイメントだけではありません。3D活用の試みは,まだすべてなされていません。

――2011年2月には,裸眼方式の3Dディスプレイを搭載する携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」が発売されます。DS向けに教育ソフトが出されている状況から考えると,早晩,3D対応の教育ソフトが出てきてもおかしくないような感じがします。

宮澤氏 その可能性は十分にありますね。3Dブームは今回が初めてではなく,過去にもありました。「今回は大丈夫なのか」と聞かれることはありますが,過去と比較して今回は3Dの可能性をいろいろと試すことができるのが強みでしょう。