ARRAの資金を受けた米FloDesign Wind Turbine Corp.が進める,風力発電機のモックアップ
ARRAの資金を受けた米FloDesign Wind Turbine Corp.が進める,風力発電機のモックアップ
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 米ホワイトハウスは,2009年2月に施行された設立した「米国復興・再投資法(ARRA:American Recovery and Reinvestment Act)」(NE関連記事)の現段階での成果に関するレポート「The Recovery Act: Transforming the American Economy through Innovation」を公開した(発表資料PDF形式のレポート)。同レポートを公開した報道機関向けイベントにおいて,米副大統領Joe Biden氏は「20世紀の経済基礎をただ作り直すことでは足りない。21世紀のチャレンジに向けて,我々は米国経済の新しい基礎を設立する必要がある」と述べた。ARRAは,この目的を実現する一つの要素とする。このイベントに同席した米エネルギー省(DOE:Department of Energy)長官のSteven Chu氏は,「ARRAの設立により,現在の電池技術に比べてコストが1/3と低く,かつエネルギー保存の容量が100倍の電池や,太陽電池パネルの価格を今後の10年間以内に1W当たり1ドル以下にするといったイノベーションの実現が近づいた」と効果の大きさを強調した。

 今回公開したレポートによると,ARRAの総額7872億米ドル資金のうちの1000億米ドル以上を,主に次の4項目に投資している。それは,1)最先端の車両技術もしくは高速鉄道を含む交通機関の近代化,2)太陽光発電技術および風力発電技術によって再生可能エネルギー分野を活性化,3)スマートグリッドやブロードバンド,医療・ヘルスケア分野へのIT導入において民間投資を加速する環境を整備,4)医療分野の基礎研究,である。

 上記1)の車両分野では,特に電動自動車(EV)用途の電池分野をARRAの投資による成果としてうたう。2009年の段階では,米国内にEV向け電池を製造する工場は二つしかなかった。ARRAの投資により,2012年までにはEV向け電池工場の数は20まで増え,EVおよびプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)の50万台分の生産を支えられるという。2013年までには,EVおよびPHEV向け電池のコストは2009年比で半分に下がると予測している。

 2)の再生エネルギー分野では,現段階で200MWの電力を提供している太陽発電のプロジェクト設立にARRAは貢献したとする。風力発電でも貢献しており,100個以上の風力発電プロジェクトにARRAの資金を投入し,5.3GW分の発電が可能になったという。3)スマートグリッド分野では,米国内で新たに1800万台のスマートメーターを導入するという計画がARRAの成果とする。米国では現在,800万台のスマートメーターが導入されている。前出の1800万台は,現在の導入量に追加される形となる。

 健康分野では,ARRAからの資金が米国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)の基礎研究を支えたとする。NIHにてガンの遺伝子配列の研究が進んだのが,ARRAの成果の一例という。なお,この遺伝子配列の研究には,遺伝子配列の研究コストを遺伝子一つあたり1000米ドルに下げるという目的もある。現在,このコストは5万米ドル以上だという。

 2010年は米国議会の選挙が実施される。厳しい共和党との競争を向けて, 民主党がObama政権の成果をアピールする目的の一つとして,今回のレポートを公開したという解釈もできる。