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ワインで超電導? 物質・材料研究機構が大真面目で発表した理由

2010/07/28 17:26
田島 進=主任編集委員
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 物質・材料研究機構(以下,物材研)と科学技術振興機構は,2010年7月27日「お酒が誘発する鉄系超伝導」と題したプレスリリースを発表した。新聞各紙がこれを取り上げ,ネット上でも話題となっている。

 まず,物材研らの発表の要点を,7月28日付けの日本経済新聞の記事の要約で紹介する。「赤ワインにつけて一昼夜煮込むと,電気抵抗がゼロになる超電導物質ができる――。こんな不思議な現象を鉄などの化合物で発見したと物質・材料研究機構と科学技術振興機構が27日発表した。白ワイン,ビール,日本酒,焼酎,ウイスキーでも同様の効果があったが赤ワインがもっとも超電導になりやすかった。この現象を示すのは鉄・テルル・イオウの化合物で,もともとは超電導物質の性質は持たない。しかし酒に浸し,セ氏約70度で24時間加熱すると,絶対温度約8度(8K,または−265℃)で超電導状態になることが分かった」。

お酒の種類で違う効果

 記事はこのあと,「超電導状態にする効果はアルコール度数による違いはあまりなく,酒の種類によって差がついた。水とエタノールの混合溶液に比べ,赤ワインは7倍近く効果が高かった。次いで白ワイン,ビールなどの順。水、エタノール以外の成分が重要な原因物質とみて解明研究を進めている。」と続く。

 最先端の超電導研究に,ワインだとかビールだとかが関係するというミスマッチが注目の的である。その前に,読者の皆さんは,まずこんな疑問を持たなかっただろうか。「信じられない話だが,もし本当なら,もう少し詳細がわかってから発表すべきではないのか」。筆者も同じ疑問を持ったので,物材研の研究者らに直接話を聞いてみた。

超電導研究の最前線

 その話をお伝えする前に,超電導研究の背景を簡単におさらいしておこう。1986年に高温超電導が発見されてから24年も経つが,実はいまだに高温超電導のメカニズムは未解明である。超電導を工業的に利用するには,室温ないし十分室温に近い温度で超電導現象を示す材料が必要だが,まだその温度(転移温度,Tc)は−140℃程度と低い。理論(指導原理)がはっきりしないので,新しい材料を見つけ出す研究は困難を極めている。

 そうは言っても,最近,いくつか系統の異なる材料で超電導体が見つかるようになってきた。いずれもTcは低いが,材料の系統が違うというのはメカニズムの解明に貢献するので,とても重要な研究である。今回,物材研 超伝導材料センター ナノフロンティア材料グループの高野義彦氏らが研究していた材料は,2008年に東京工業大学のグループが発見した鉄系超電導体の派生物質。鉄系超電導体の多くは,FeAs,FeP,FeSeなどによる2次元構造を持っている。物材研は結晶構造が類似しているが,反強磁性体で通常は超電導が発現しないFeTeを研究対象にしていた。これまでに,FeTeにSをドープしたFeTe1-xSxで,超電導を発現させることに成功している(製法はメルト法)。

 しかし,このFeTe1-xSxは,別の製法(固相反応法)で作ると超電導を示さなくなる。この特性は,何が原因で超電導を示したり,示さなくなったりするのかを研究するには適している。今回,ワインで煮込んだのは,この材料である。

酸素がドープされる

 超電導になりそうな候補物質(絶縁体)を超電導体にするには,何らかの方法でキャリア(電子やホール)を注入する必要がある。普通は,高温で酸素を拡散させる。しかし,固相反応法で作製したFeTe1-xSxは,200℃の酸素アニールを施しても超電導にならなかった。そのかわり,不思議なことに,長期間空気中に暴露していたFeTe1-xSxは,いつのまにか超電導体になっていたのである(もちろん,極低温での話)。

 そこで高野氏らは,FeTe1-xSxに,低温の化学反応でキャリアがドープできるのではないかと考えた。OH基の関与を想定して,純水やアルコール溶液に浸漬したり,反応を加速するために加温したりしたが,あまり効果はなかった。

ひょうたんから駒

 そんな折,鉄系超電導体の発見者である東工大の神原陽一氏(現在は慶應義塾大学理工学部専任講師)を招いた研究所の懇親会で,ふとしたことから試料をお酒に浸してみたら,という話が持ち上がる。もちろん,冗談半分だったに違いないが,「本当にやってみたら驚くような結果が出てしまった」(高野氏)のである。

 さて,この研究の最大の謎は,アルコール濃度と超電導特性にまったく関係がないことである。となると,ワインに含まれるアルコール以外の成分が原因となるが,それを見つけ出すのは大変なことのように思われる。

 「今回,このような段階で発表することにした理由は,1)再現性が非常に高く,現象が起きていることは確実であると判断できること,それに,2)原因物質を見つけるのにこの先,非常に時間がかかると思われること」と物材研の熊倉浩明超伝導材料研究センター長は述べている。

  ワインの中のどの成分が,どんな化学反応をしているのかはまだ不明。本当にそうなのかも,厳密には不明である。高野氏は,「FeTe1-xSxの試料は層状化合物なので,低温でも酸素原子が層間に拡散していく可能性はあると思う。その反応に,ワインの成分が何らかの関与をしているのかもしれない」という。

 高野氏らは8月1日から米国で開かれる超電導の国際会議「ACS2010」でこの研究を発表する予定。海外の研究者やマスコミは,はたしてどんな反応をするだろうか。

 

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