2010年6月24日に世界5カ国で同時発売された米Apple Inc.の新型スマートフォン「iPhone 4」が,思わぬ「アンテナ問題」に揺れている。左手で端末を持つなど,握り方によって受信状態が不安定になる現象が発生し,米国などで苦情が相次いでいるのだ。一部では,集団訴訟に発展する騒ぎも起きている。

 日経エレクトロニクス分解班も,端末左側面の下側に存在するスリット部の付近を手で覆うと,受信状態が不安定になることを確認している(Tech-On!関連記事)

 Apple社は2010年7月16日(米国時間)に記者会見を開く見込みで,このアンテナ問題に対して何らかの説明をするのではないかとの憶測も出ている。

 日経エレクトロニクス分解班は先日,分解の速報としてiPhone 4のアンテナの構造を予想した(Tech-On!関連記事)。その後,複数のアンテナ技術者への取材を通して,より詳細なiPhone 4のアンテナ構造を推測することができた。

 その構造から考えると,今回の問題が生じるのはアンテナの設計に起因する可能性が高い。以下は,日経エレクトロニクス2010年7月12日号に掲載した記事を抜粋・加筆したものである。

---------------------------

 iPhone 4の携帯電話網用のメイン・アンテナは,図1のような構造になっていると推測できる。(1)筐体下側の側面部と,(2)スピーカー・モジュールの上に配置された薄い樹脂部品が,それぞれアンテナとして機能しているとみられる。

 手で覆うと受信状態が不安定になるスリット付近は,(1)のアンテナの開放端側の放射電極が露出しており,さらに(1)と(2)のアンテナが結合している個所でもある。つまり,この部分に手などの抵抗体が存在すると,アンテナの利得に変化を与えやすい構造になっている。「この構造であれば,報告されているような問題が生じるのは納得がいく」(アンテナ技術者)。端末にカバーを装着すれば問題が生じないとされているのは,この部分が電気的に絶縁されるためと考えられる。

 日経エレクトロニクス分解班は当初,(2)の樹脂部品のみがアンテナとして機能しているのではないかと予想した。しかし,(2)の部品の電極パターンは小さすぎるため,「それだけでは世界の5バンドに対応するアンテナになっているとは考えにくい」(アンテナ技術者)ことや,「仮に(1)の筐体側面がすべて接地だとすると,(2)のアンテナは携帯電話機として明らかな感度不足」(同)であることなどから,当初予想した可能性は低そうだ。

 なお,わざわざアンテナを二つ設けたのは,筐体の一部をアンテナとして使う斬新な設計に対するリスク回避のためと推測できる。この設計は,iPhone 4におけるウリの一つでもあり,Apple社 CEOのSteve Jobs氏は「アンテナ感度を高めるため」などとしている。ただし,筐体のアンテナだけでは「周波数特性などの微調整が必要な場合,金型から起こし直しになる」(アンテナ技術者)。

 そこで,端末内部にもう一つのアンテナを設けたとみられる。(2)の樹脂部品にはコイルとコンデンサが1個ずつ実装されており,特性を微調整する部品と推測できる。

日経エレクトロニクス2010年7月26号では,メイン・アンテナやサブ・アンテナの詳細を含めた,iPhone 4の分解記事を掲載する予定です。

図1 メイン・アンテナの構造メイン・アンテナは本体下部に存在し,二つのアンテナから成る。(1)筐体側面を利用したアンテナと,(2)スピーカー・モジュールの上の薄い樹脂部品に配線したアンテナである。図に示した機能は本誌の推定。(写真:中村 宏)
図1 メイン・アンテナの構造メイン・アンテナは本体下部に存在し,二つのアンテナから成る。(1)筐体側面を利用したアンテナと,(2)スピーカー・モジュールの上の薄い樹脂部品に配線したアンテナである。図に示した機能は本誌の推定。(写真:中村 宏)
[画像のクリックで拡大表示]