図1 試作タッチ・パネルを搭載したデモ機。演算処理は小型の映像表示機器につながったパソコンなどで行っている。ユーザーがタッチ・パネルに触れる力を強くするほど,画面に表示されたアイコンの切り替え速度が速くなる。なお,写真に写ったアイコンの場合,上下方向に切り替わる。映像表示機器には,「Sony Ericsson」の刻印がある。
図1 試作タッチ・パネルを搭載したデモ機。演算処理は小型の映像表示機器につながったパソコンなどで行っている。ユーザーがタッチ・パネルに触れる力を強くするほど,画面に表示されたアイコンの切り替え速度が速くなる。なお,写真に写ったアイコンの場合,上下方向に切り替わる。映像表示機器には,「Sony Ericsson」の刻印がある。
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図2 説明パネルとデモ機
図2 説明パネルとデモ機
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 ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)は,2010年5月28日の同研究所公開「オープンハウス2010」において,携帯電話機に向けて試作した新型タッチ・パネルの動作デモを披露した。試作品の特徴は,触覚フィードバック機能を備えた上,ユーザーがタッチ・パネルに触れた際の力の入れ具合を検知する機能を備えたこと。つまり,従来の平面(x軸方向,y軸方向)の位置情報だけでなく,法線方向(z軸方向)に加わる力も検出できるようになった。

 デモでは,試作品を取り付けた,携帯電話機のような小型の映像表示機器を利用(図1)。ユーザーがタッチ・パネルに触れる力の入れ具合を変えることで,画面に表示されたアイコンの切り替え速度が変化する様を披露した。強く押すほど,アイコンを高速に切り替えられる。

 触覚フィードバックを実現するため,圧電素子を利用したアクチュエーターを利用する。携帯電話機の偏心モーターを使う場合に比べて,応答速度が速く,「小気味よい操作感を得られる」(説明員)という。アクチュエーターは,入力を検知すると,タッチ・パネルをz軸方向に振動させる。その振幅は約30μmとわずかだが,「人間は十分検知できる水準」(説明員)である。 

 従来,圧電素子の駆動電圧が300Vと高かったことが課題だったという。そこで16層の多層構造を採用し,低い電圧でも圧電素子の駆動に必要な電界の勾配を得られるようにした。この結果,駆動電圧が±9Vまで低くなった。「DC-DC変換して昇圧すれば,携帯電話機の2次電池でも駆動できる」(前出の説明員)とみる。

 加えて,携帯電話機へ搭載するため,アクチュエーターを小型化した。圧電素子を搭載した小型基板の大きさは30mm×3mm×0.8mmである。

 Z軸方向の圧力を検知するために,「Force Sensing Register(FSR)」を採用した。力の大きさによって抵抗値が変化するため,力の強さを検出できる。

 デモ機に搭載した試作タッチ・パネルには,FSR 6個と圧電アクチュエーター2個を,表示部の額縁(ベゼル)部分の下に実装した。具体的には,上部と下部,そして上部と下部の間の中央部の3カ所の左右それぞれに1個ずつFSRを配置した。アクチュエーターは,中央部左右にそれぞれ1個ずつ搭載している。

デモ機には「ソニエリ」の刻印

 

 実用化時期に関しては,「なるべく早く携帯電話機に搭載したい」(説明員)とし,明言を避けた。実用化に向けた課題の一つがコストである。「FSRの機能を絞り込むなどして,コスト低減を図りたい」(説明員)という。ソニーCSLは明らかにしていないが,実用化された場合,日スウェーデン合弁Sony Ericsson Mobile Communications ABの製品に搭載される可能性が高そうだ。実際,デモに利用した小型の映像表示機器には,「Sony Ericsson」の刻印があった。また,説明パネルにも同社との協力関係を示唆する文面が記載されていた(図2)。