3DSAでの実演内容。撮影側2システム,表示側1システムから成る。
3DSAでの実演内容。撮影側2システム,表示側1システムから成る。
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可搬型多視点カメラ・システム。超高速シャッターが可能なカシオのカメラを用いている。シャッターは無線LANで一斉に切れる。動画も撮影可能。
可搬型多視点カメラ・システム。超高速シャッターが可能なカシオのカメラを用いている。シャッターは無線LANで一斉に切れる。動画も撮影可能。
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デプス・カメラとその映像。オランダPhilips社のディスプレイの(向かって)左半分に一般のカメラの映像,右半分に赤外線の測距カメラの映像を表示している。
デプス・カメラとその映像。オランダPhilips社のディスプレイの(向かって)左半分に一般のカメラの映像,右半分に赤外線の測距カメラの映像を表示している。
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デプス・カメラの拡大。左側は一般のビデオ・カメラ。右側は,スイスmesa社の赤外線測距カメラ。
デプス・カメラの拡大。左側は一般のビデオ・カメラ。右側は,スイスmesa社の赤外線測距カメラ。
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 中京テレビ放送,慶応義塾大学,名古屋大学,福井大学,東京工業大学は,次世代の3次元(3D)テレビに向けた撮影システム,および表示システムを共同で開発し,2010年5月19~21日に東京都内で開催された3D映像技術の国際会議「3D Systems and Applications(3DSA)2010」の会場で実演した。

 中京テレビ放送などが今回実演したのは,被写体を複数のカメラ,つまり多視点で撮影した映像データ,あるいは多視点で撮影した場合とほぼ等価な映像データを作成し,その映像の「視点」を視聴者自身で選んで視聴できるシステムである。

 多視点の撮影は,スポーツ中継などで,さまざまな角度からの映像を見るために既に使われているが,3D映像も基本的には2台のカメラを用いて撮影するという点で多視点撮影の一種といえる。今回の研究グループは,次世代の3D映像技術では,場合によっては100台かそれ以上のカメラの映像から,いったん被写体の立体映像データを構成し,そこから任意の視点の左目用,右目用の映像を切り出して見るという構想を立てている。

光軸合わせをソフトウエアで実現

 今回実演した多視点の撮影システムは大きく2種類ある。一つは,カメラを多数並べて被写体を同時に撮影するシステム。東京工業大学が主に開発した。特徴は,気軽に持ち運び,気軽に設置してさまざまな視点からの撮影ができる点。光軸などの調整も不要だという。

 従来の3Dカメラは,基本的な2眼の場合でも,大型で重く,持ち運びや設置が非常に大変だった。これは,撮影時の光軸の角度の調整をするため,「リグ」と呼ぶ大型の架台に2台のカメラを固定することによる。カメラが数台~100台と多数になると,システムは非常に大型になり,「設置・調整するだけでも1日がかり」(東京工業大学)になることも多かったという。

 今回の撮影システムは,カメラ8台をそれぞれネットブックに接続し,三脚に載せたものである。シャッターは,無線LANを利用し同時に撮影を開始できるようにした。各映像はまずネットブックで画像処理され,データの総量を減らすことができる。

 最大のポイントは,光軸合わせなどを不要にした点。「撮影した各映像から被写体の特徴点を抽出し,そこから各カメラと被写体との位置関係,各カメラの向きなどをソフトウエアで解析,把握する」(東京工業大学 理工学科 集積システム専攻 准教授の藤井俊彰氏)ことで実現した。従来の多視点カメラと異なり,カメラの間隔もある程度自由に選べるため,カメラの設置がより柔軟になるメリットもあるという。

2D映像+奥行き情報で立体映像を構成

 もう一つの撮影システムは,「デプス(depth)カメラ」と呼ぶ1視点のカメラで,多数のカメラと同様に被写体の立体映像のデータを構成することを目指したものである。具体的には,2次元(2D)の映像データに奥行き情報を加えることで,多数のカメラを用いる必要なしにほぼ任意の視点の映像を再構成できるようにした。奥行き情報の取得には,スイスmesa社(国内販売元は日本クラビス)の赤外線利用の測距カメラを利用した。「カメラから最大約5mの距離にある被写体までの距離を約0.5cm刻みの精度で取得できる」(慶応義塾大学)。

 この1視点+奥行き情報のカメラと,前述の多視点カメラは互いに補完的な関係にあるという。「被写体までの距離が遠くなると,赤外線カメラでは奥行き情報が取得できないため,多視点カメラが必要になる」(東京工業大学)。一方,室内などでは「カメラの台数はやはり少ないほうがよく,デプス・カメラが役に立つ」(慶応義塾大学)という。



 日経エレクトロニクスは,2010年6月29日(火)にNEセミナー「3D放送の展望と標準化の行方」,同6月30日(水)にはNEアカデミー「3Dディスプレイの基礎と応用」を開催します。NEセミナーでは,国内外で急増する3D放送に関する最新動向を,NEアカデミーでは,3D映像技術の基礎を網羅的に把握できます。ぜひご参加下さい(会場はNEセミナーと異なります。NEアカデミーは,2010年1月25日に開催した内容の,アンコール講演です)。