南川明氏
南川明氏
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 電子機器や半導体分野のアナリストであるアイサプライ・ジャパンの南川氏に, iPadについて聞いた。同氏によると,iPadからは米Apple Inc.のものづくりのノウハウや部品メーカーの競争の様子,将来のエレクトロニクス市場の展望が透けて見えるという。(聞き手:河合基伸=日経エレクトロニクス)。

――iPadに関して注目しているのはどのような点ですか。

 iPadだけに限ったことではないが,Apple社のものづくりの考え方は非常に特徴的で新しい。特に,EMSやODMの使い方に興味を持っている。具体的には,設計や試作を自ら手掛け,製造だけをEMSに任せる手法である。こうすることで,製品コンセプトやブランド・イメージを損なうことなく,低コスト化を実現している。設計や試作を自ら手掛けるといっても,日本メーカーのように高機能の部材をふんだんに使うことがないのも特徴だ。

――iPadを構成する部品に特徴はありますか。

 iPadの部品の調達先を調べると,日本以外のメーカーの製品が多かった。これはなぜか。特に主要部品の調達では,メーカー間のトップ・セールスの差が現れたのではないか。例えば韓国Samsung Electronics Co., Ltd. は,トップの役割として,マネージングのほかに,トップ・セールスや世界の優秀な人材の確保も重要だと考えている。こうした考え方の基にトップ・セールスを展開して,プロセサやフラッシュ・メモリといった主要部品のiPadへの納入につなげた。
 これに対して,日本メーカーはトップ・セールスが弱いのではないか。どこに売り込めばいいか分からなかったり,売り込みに行ったものの既に他社に先を越されていたり,といった話を聞いたことがある。

――iPadは短期間に販売台数を伸ばしています。

 米国で先行発売されたiPadは,短期間で驚異的な販売台数を記録した。今後は,こうした先進国のエレクトロニクス需要に加えて,新興国の需要が急速に増えることを留意しなければならない。
 将来的に新興国におけるエレクトロニクス機器の購買層は,先進国と同等の10億人に達するだろう。つまり,市場規模が一気に2倍になるのだ。そうなれば,今以上の大量消費・大量生産の時代に突入する。エレクトロニクス・メーカーは,製造の効率化や改革に取り組む必要がある。既に世界では,大量消費・大量生産時代に向けて,製造技術に回帰する動きが出てきた。iPadの次に向けた戦いが始まっている。