伊藤正裕氏
伊藤正裕氏
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電通が運営する電子雑誌の有料配信サービス「MAGASTORE」を始めとして,電子新聞や電子雑誌の配信サービスを積極的に開発しているヤッパ。同社代表取締役社長の伊藤正裕氏に,iPadをどう見ているのかを聞いた。(聞き手=内田 泰)

 iPadは「カジュアル・コンピューティング」という新たな分野を開拓するだろう。キーボードは不要で,Webサイトの閲覧,メールのやり取り,ちょっとした資料作成なら,パソコンを使わなくても,これで十分だ。

 電子書籍では,国内で雑誌,コミックの売り上げ時間帯のピークは,深夜0~3時ぐらい。iPadならそんな深夜に,机に向かわなくてもソファーやベッドに寝転んで使える。
 本来,雑誌や新聞,本は指でページをめくって使うので,iPadのようなタッチ型のUI(ユーザー・インタフェース)は相性がいい。現実世界に近い使い方ができるからだ。Kindleは最近,テキストを選択してTwitterに投稿できるようになったが,カーソルで操作する必要があるため,はっきり言って使い勝手は良くない。

 Kindleなど電子ペーパーを搭載した電子書籍端末とは異なり,動画を表示できる点も,日本市場では好都合だ。日本では電子書籍は,週刊誌や写真を多用したファッション誌,コミックなど娯楽性が高いコンテンツから普及する可能性が高いからだ。実際に使ってみて,駆動時間が10数時間と長い点にも驚いている。

 (iPadはiPhoneの技術を継承した製品だが,)画面サイズを大型化したことで,電子書籍端末としては比べ物にならないぐらい優れた製品になっている。それもそのはずで,過去にiPhoneの画面サイズ程度の大きさの有料印刷物はほとんどなかった。多くの出版社がiPadを見て,「これなら電子書籍事業をやろう」と言っている。

 もっとも,iPadも良いことづくめではない。まず,本体が結構重く片手で操作できないので,通勤電車などでは使いにくい。画面が大きいので他人から内容が丸見えで,プライバシーの確保が難しい。プライバシー保護用のフィルターを画面に張ると,本体の向きを変えたときに画面が見えなくなる不都合も生じるだろう。

 つまり,現状のiPadでは使う場所を選ぶ。今後,AndroidやWindows 7をベースにしたタブレット端末が市場に投入されるだろう。5~6型の画面を搭載し,iPadより軽量なタブレット端末を開発すれば,国内市場で消費者に受け入れられるかもしれない。